" /> 現役地方銀行員の事業再生ブログ(近頃の話 融資を謝絶するということなど2) - 地方銀行員が語る「中小企業再生支援」の現場

現役地方銀行員の事業再生ブログ(近頃の話 融資を謝絶するということなど2)                 

事業再生

こんにちは、#ひろとし課長#です。某地方銀行で営業店管理職をやってます、現職です。私は長年、事業再生のセクションに従事し、1年ほど前まで責任者をやっておりました。これらの経験を、2022年より、「事業再生」をテーマにブログにて紹介しています。

といっても最近筆を取る機会がめっきり減ってしまい、3か月振りの投稿となってしまいました。前回、といっても2023年7月ですが、お話ししましたB社の近況について、説明します。

1.支払停止ということ

B社の社長とその後継者が銀行にやってきました。私が融資を謝絶してから2か月ほどたっていましたが、なんとか資金繰りはつないでいたようです。しかし今年の夏を超すことはできないという話でした。

B社の後継者である代取の息子は、この間、知人から資金融通をお願いしていたのと同時に、同業者への身売り(M&A)のため、手当たり次第に駆け回っていたといいます。その中で、興味をもっている企業が数社あったので、その企業からの回答を待っているのだと。

以前B社が来行したときに、私が「中小企業活性化協議会」の※「再チャレンジ支援」という制度を紹介し、そこで紹介された弁護士から今後のことをいろいろとアドバイスを受けた、ようです。

再チャレンジ支援

本支援は、収益力の改善や事業再生等が極めて困難な中小企業や保証債務に悩む経営者等を対象に、弁護士等の外部専門家の紹介や、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」等を活用した円滑な廃業に向けてのサポート、「経営者保証に関するガイドライン」等を活用した経営者等の再スタートのための支援を実施します。
本支援は、中小企業活性化協議会の前身である、中小企業再生支援協議会が2018年から実施している支援です。                                         
 中小企業HP

息子が説明するには、8月〇〇日までにスポンサーが決まらなければ、破産申し立てをする。これ以上先延ばしすると、破産申立の費用も枯渇してしまう。破産もできないと、いろいろな人々に多大な迷惑をかけてしまうので・・・。たしかに破産するにも金が必要なのだ。

B社の話を聞いていて、私は2つのことを考えていました。                       

ひとつは、今になってここまで精力的に動くことができるのでれば、もっと以前からM&Aなどを検討しおけばよかったな(銀行もB社も)。まさか、B社のような成熟業種で買いを検討する企業がいるとは思わなかった。それほど世間では、人手不足が深刻なんだろう。企業、ビジネスモデルというよりも、従業員(人)がほしいんだ。

そしてもうひとつは、「破産」を前提として活動している、このような発言を銀行員の前でするか?代表者が銀行員の前で「破産するかも」という発言は、「支払停止」を表明しているではないか。

支払停止」とは,「債務者が資力欠乏のため一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為」のことをいいます(最一小判昭和60年2月14日集民144号109頁)。

支払停止が認められると,債務者が「支払不能」であることが推定されます(破産法15条2項)。

「支払停止」の表明は、張り紙、弁護士受任など、「支払不能」と推定され、金融機関としては、期限の利益喪失事由(当然喪失)に該当します。ここで、正しき銀行員の取るべき行動は、即座に預金口座の支払停止をしなければなりません。

2.背任行為?利益相反?

B社の担当である私の部下は、「預金を止めなくてよいのでしょうか?」と心配で私に尋ねてきました。ここでB社の預金口座を拘束すると、給与支払い等が行えません。また全額借入金の相殺に充当してしまうと、破産費用が捻出できなくなります。

B社の口座には大した金額は残っていなかったものの、まだ売上代金の入金があったり、そこそこの動きがありました。「M&Aを成立させるためには、B社は営業継続していないとならない。まだ再生の可能性がある限り預金拘束はしない。」と担当に伝えました。それからB社の社長に対しても、これ以上預金口座を動かすのはよろしくないので、売上代金の入金は他行に移してほしい、とも指示しました。

私は、つくづく危ない橋をわたっているなあ、と思いました。預金金額は少額とはいえ、相殺にあてれば幾分は回収できるはず、これって銀行に対する背任行為にあたるのかなあ。とも考ました。でもこの状態でB社にとどめはさせないでしょ。とりあえず部下には「俺が全責任を取るから安心しろ」と伝えました。

#ひろとし課長
#ひろとし課長

俺が責任をとる

こういう気持ちは、現場で実際に倒産の経験をしたことのない行員にはわからない、でしょうね。再生の見込みのない企業に廃業を促す「廃業支援」というものが、銀行で行われないのも、今回のようも「貸出金の回収」「円満な廃業」という利益相反が生じるからではないか、ともつくづく思いました。

B社の社長は、「私の自宅は処分して、わずかながらも銀行に返済するようにします。」と誠意を見せていました。社長の自宅は銀行の根抵当権(担保)を設定をしていたのです。

3.そして破産へ

その後しばらくしたのち、B社の社長と息子が、2名で再びやってきました。M&Aの話は、先方からお断りされたといいます。ただし従業員全員を引き取ってもよい、という企業がいて、廃業したのち従業員全員を採用してもらうということになった、といいます。

私は、従業員雇用の継続はできたのが何よりだと思いながら、ただこれで、B社から「完全に破産する」という意思表示を示した(=支払停止)ものと受け止め、社長に「預金は拘束します」、と宣言しました。

その後、B社の店舗に「〇〇月〇〇日をもって営業を終了します」という告知(張り紙)がなされた後、しばらくした後に、「破産申立」の通知(FAX)が銀行に送られてきました。銀行側とすると、あらかじめ想定していたことなので、関係者への報告等もスムーズに行いました。ロス額も引当金の範囲内なので、決算に影響を与えることもありませんでした。

数日後、社長から担当宛に電話があり、「破産申し立てすることを、銀行に直接相談に行けずに申し訳ありませんでした。」と詫びの言葉がありました。営業終了を案内したところ、マスコミや興信所の知るところとなり、スケジュール前倒しで、あわてて破産申し立てをしたようです。私は、ほとぼりが冷めたところで、あらためて社長が銀行に詫びに来るのかなと、少しは期待しているのですが・・・。自宅の任意売却もこれからなので。

4.やっぱり銀行が悪者?

これは事実なのか確認できていないのですが、私の前では「申し訳ない」と平身低頭の姿勢であったのですが、とある噂によると、社長の息子は「銀行が支援をしてくれなかったから倒産したのだ。」と強く言い放っているという。これはB社の取引先企業さん、が聞いた話ということですが。

私はこれを聞いて、「やっぱりな」と思いました。銀行がどんなに誠意をもって尽くして対応しても、円滑な幕引きのために私が危ない橋をわたっても、「あの時貸してくれれば・・・・」ということにつきるようです。これが人情なのでしょう。結局最後は銀行が悪者になる、そういうことはもともと覚悟していましたので、冷めた気持ちでとらえております。

ゼロゼロ融資の返済が本格化、これからますます伴走支援が求められる、このように言われています。すべての企業が再生できるならば、支援継続すればよいでしょう、しかしB社のようなコロナ前からの業績不良先、いわゆる「ゾンビ企業」はどのように対応すればよいのでしょうか?

新陳代謝だと称して、「もうおしまい」なんて簡単にできるはずがありません。B社の場合にも、融資謝絶したのちも、何度も面談を経て、何時間も議論や説得を費やしました。最後は「破産」という結果となってしまいましたが、なんとか着地したという実感です。私は銀行員人生の中で、これまでに何度も倒産に向かい合う経験はしておりますが、こちらも精神的には相当疲弊します。また、いろいろなところで、あの時ああしておけば、なんて自責の念に駆られることもしばしばあります。ホント、タフでないと務まりません。

私は、市場から退場を促すこと、これもメイン金融機関の重要な責任だと思っています。B社の事例は、おそらく日常事として、地方金融機関のそこら中にある話なのでは。地域金融機関としては、逃げずに、めげずに。地道にひとつひとつ、取り組んでいくしか、ないのでしょうね。

ただし、事務的にこなすのではなく、誠意をもって対応する、これが必要なのです。

このような事象はまだまだ続きます。

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