こんにちは、#ひろとし課長#です。
長年、事業再生セクションに従事していた経験を、このようにブログとして紹介しています。
今回もテーマも、前回、前々回の続編、「債権放棄」について述べていきたいと思います。
今回は、債権放棄をするときに、金融機関の中では、どのようなことが行われるのか、
この辺について、
長年リスケを継続し、必要な赤字資金を対応しながら、再生を信じて経営支援を行ってきた、
こういう事業再生支援先を「債権放棄する」という想定で、話を進めます。
対応方針の検討
もはや限界、これ以上の継続支援は無理。
なにがムリかというと、資金ショートが予想される中、
これ以上、追加の赤字資金は出せない、ということ。
事業再生支援先の中には、残念ながらこういう先もでてきます。
企業が行き詰る時、それは資金が枯渇し、借入金返済はもちろん、
仕入れ資金、給与が払えなくなるとき。
金融機関が融資対応しなければ、信用不安が一気に広がってしまう。
当然商売どころではなくなります。
計画の進捗が芳しくなく、赤字が継続。あと数か月後には資金ショートを起こす。
金融機関の担当者は、資金繰り表をじっと見つめ、万策つきた感をにじみ出す。
営業店と本部の審査セクションは、この企業の対応方針を決断する。
支援継続か、断念か。
支援しない=倒産である。
そうはいっても、これまで支援してきた先であり、担当としても簡単には諦めきれない。
しかも、圧倒的なメイン行である場合、A社が倒産したのは、メイン行がひいたから。
と、世間ではそういわれるに決まっている。
また、これまで協調支援をお願いしてきた金融機関からも、
「メイン行さんが支援すると言っていたから、これまでリスケしてたのではないですか。」
このように非難されることもよくある話。
つぶすか、つぶさないか、
単に経済合理性だけでなく、風評やしがらみ、これまでやり方、
すべて含めて判断しなければならないのです。
「長年支援を継続したのだから、最後はソフトランディングで、締めくくる。」
「融資金の全額回収は不可能だが、なんとか会社だけは存続させたい。」
金融機関としても、これまでメインとして支援してきたプライドがあるのだ。
「債権カットによる支援に切り替えよう。」
営業店だけでなく、本部、担当役員や経営陣を含めた会議のなかで、
このような対応方針の意思決定が下されるのです。
経営者に通告
債権放棄もやり方はいろいろあるのですが、最近ではスポンサー型が一番多いでしょう。
有力な他社が、再生企業の経営や営業を引き受けるというもの。
「〇〇がスポンサー候補に名乗りを上げた」
というような新聞見出しがありますよね。あれの中小企業版です。
これまでの自力再生支援から、スポンサー型支援に切り替えるには、
まず、経営者にその旨を通告する必要があります。
社長や経営陣を銀行に呼び出し、
これ以上の追加の融資は出せないこと、資金繰りが早々に行き詰ること、
企業を存続させるためには、スポンサーによる支援が必要であること、などです。
金融機関としても、いくら業績不芳企業であっても、
長年のブランドのある企業の社長に対して、引導を渡すこと、簡単ではありません。
相応の敬意を表して、こういう儀式を行うのです。
相手方の社長も、なんとなく、自力再生は無理なんだな、というところは理解しています。
しかしここから先の話、
経営陣は企業に残れるかどうかはわかりません、代取の自宅は担保処分となります、
そのかわり、銀行も債権を一部放棄することとなります。
こう切り出した時、経営者は何を思うのでしょうか?
自分の住む家は処分されてしまうこと、これからどうやって生活していくのか、
これらのことを思うのでしょうか。
私は何度かこういう宣告をしたことがあるのですが、結構、みな冷静です。
すでに覚悟の上、ということなのでしょうか。
それとも、状況をまだ理解できないのでしょうか?
「わたし達はよいのですが、従業員はなんとか助けてあげてほしい。」
こんなことを言う経営者もおりました。
ただし、「債権放棄することになってしまって、申し訳ありません。」
とは、言われたことは、いままで、たぶんありません。
スポンサー探し
自力再生支援から、スポンサー型の抜本再生支援の方針転換、
いつものことながらスケジュールがタイトです。
資金繰り破綻は何か月後、という短い期間の中で、
スポンサー候補の選定、DDの実施、再生計画の策定、金融機関の同意、
すべてクローズさせなければいけません。
しかも、私的整理で行う場合は、すべて極秘(金融機関内でも)で進行します。
その間に資金ショートしていまったらアウトです。
スポンサー候補は、金融機関の取引先や行内情報、再生支援協議会からの紹介や、
M&A会社とFA契約を締結して、探索するケースもあります。
短時間で極秘行うことから、候補先探しは当然に難航します。
私も「藁にもすがる」思いで、いろいろなアプローチを行いました。
なかには、FA会社から紹介されたのですが、
再生企業を購入し、自分で再生させる、ことを「趣味?」のようにしている投資家もおりました。
ただし、そういう方はやはり見方もシビアで、値段もかなり厳しいものでした。
金融機関調整
自力再生支援から、スポンサー型の抜本再生支援に移行する場合、
中小企業再生支援協議会(現:活性化協議会)案件の場合、バンクミーティングを開催したりします。
当然に金融機関の全行同意をいただかないと、スポンサーが現れたとしても、計画は成立しません。
単純なリスケには応じても、「債権カット」となると、
身構えてしまう金融機関は、いまだに多いです。
信用保証協会もそのひとつでしょう。
政府系金融機関は、全国的に慣れているので、スポンサー支援、債権カットには、比較的冷静です。
「うちは、法的ならやむを得ませんが、私的でカットすることは基本ありません。」
こんな発言をする信用金庫さんは、平気で存在します。
引当も積んでいる(だろう?)にもかかわらず。
金融機関調整は、再生支援協議会案件ならば、支援協さんが行うものですが、
メイン行である場合、反対しそうな金融機関に、ひとつひとつ丁寧に説明しまわることもあります。
計画成立のためには全行同意が必要、これが結構時間がかかります。
スポンサーは見つかりそう、だけど金融機関同意に時間がかる、
このせいで資金繰りが間に合わず、法的スキームに移行せざるを得ないケースもあります。
私的か法的か
私的整理でなんとか、と思いながら、
スポンサーがなかなか見つからず(極秘なので仕方がないのですが)、
金融機関も債権カットすることに異議を唱えている、
そうしている間にも、資金繰りが・・・・。
スポンサー型債権放棄の場合、私的整理と同時並行で法的整理も視野に入れます。
法的というと、民事再生法の申請ということが一般的です。
民事再生することで、スポンサーを探していることが公となり、
まったく想定していなかった先が、手を挙げてくることもあります。
ただし、世間では、民事再生=倒産という見方をされるので、
通常に商取引はできなくなります。
民事再生のタイミング、ホントは銀行が知っていてはいけないのですが、
企業が抜け駆けの申請すると、メイン行にも支援してもらえなくなることから、
企業の担当弁護士は、メイン行には必ず相談してくるはずです。
(再生企業のメイン行は、知っているのが当然)
民事再生申し立てを行う、一番のタイミングは、
現預金が一番潤沢であるとき、
なぜならば、弁護士費用や裁判所費用、そのたもろもろの費用がかかるので、
現預金が一番に歩留まるタイミングに行うものなのです。
そしてマスコミ等の対応などを想定し、
金曜日の午後に裁判所に申し立てる、ことが一般的です。
公が知りうるのは、企業が債権者向けに「民事再生申し立て」をFAX送信することで、
その事実が明るみとなるのです。
次は、債権放棄シリーズの第4話として、金融機関内の応諾について、述べたいと思います。
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