" /> ゾンビ企業について考える(その2) - 地方銀行員が語る「中小企業再生支援」の現場

ゾンビ企業について考える(その2)

事業再生

こんにちは、#ひろとし課長#です。某地方銀行で営業店管理職をやってます、現職です。私は長年、事業再生のセクションに従事し、従前まで責任者をやっておりました。これらの経験を、2022年より、「事業再生」をテーマにブログにて紹介しています。

今回のテーマは、前回に続き「ゾンビ企業について考える」の続編です。

ゾンビ企業とは「数年にわたって債務の利払いすらままならず経営が破綻状態にあるのに、銀行や政府などの支援によって存在し続けているような企業」と定義されています。金融機関における債務者区分、通常は「破綻懸念先」以下であり、ゾンビ企業(といわれる企業)が増加している背景として、銀行が不良債権処理に重きを置かなくなったこと、また民主党政権時、亀井大臣が唱えた「金融円滑法」によるリスケの推進(いいすぎか?)によって、金融機関はリスケに応じなくてはならない、ような土壌ができたこと、さらにはコロナ禍による中小企業支援策として、「ゼロゼロ融資」を積極的に対応したことにより、さらに延命できてしまったこと、などなど、前回のブログで述べさせていただきました。本来ならば資本主義経済において、淘汰されなければならないような企業が残ってしまっている。これら債務者を今後どのようにするのか、金融機関の、はたまた日本経済復興の大きな課題とも言われています。

金融機関は「ゾンビ企業(といわれる企業)に対して、抜本的な再生支援を行うのか、それとも事業継続できない先は新陳代謝を促すのか、どっちか、と言われていますが、なぜそれが進まないのか、を私なりの持論を展開していきたいと考えています。

そもそも再生可能性が・・・

まず、「再生支援」についてはどうでしょう。そりゃどこも再生できるにこしたことはない。企業も、金融機関も、その取引先、従業員、地域についてはみなハッピーなシナリオです。まずここを目指したい。

ところですが、そもそもゾンビ企業(といわれる企業)は、「破綻懸念先」(以下)なのです。金融機関のなかではすでにデフォルトしている先を意味しております。通常、金融機関が再生支援に取り組む先は、債務者区分を「要注意先」、最低でも「要管理先」に維持させております。つまり「破綻懸念先」とは、「もはや再生の可能性がない」とレッテルを張ってしまっている先なのです(厳しい言い方はあえて承知)。金融機関も再生の可能性のある先(あるいはわずかにでも認められている先)については、当然に対象先をリストアップなど行い、すでに取り組んでいる(いた)はず。再生の絵が描けない先が「破綻懸念先」として残ってしまっている、というケースが多いのではないでしょうか。

なお、よく言われている「抜本的な再生支援」というのは、計画を作ってリスケを行うというものよりも、さらに踏み込んだ「債権放棄を伴う」再生支援のことを言います。BS上の借入過多を解消させて、再建を図る手法ですが、それもそもそも本業のPLが立たない限り、いくら借金だけカットしたって成り立つはずがありません。つまり債権カットしても再生はあり得ず、単に金融機関が債権放棄を躊躇しているだけではありません。

金融機関は不良債権処理を促進していない(優先的に進めていない)ため、ゾンビ企業に対しても積極的に回収を図るわけでもなく、ゼロリスケ(元金据え置き)は容認する(監督官庁の指導?もあって)。またゾンビ企業はサービサーに売却しても買値が付かない(ポンカス)ケースが多く、それだったら利息収入を獲得していたほうがよい、ということでこれもまた進まない。こうしてゾンビ企業は日銭さえ入れば、生きながらえることができてしまう、これも前回のブログで述べたこと。

ポンカス

回収可能性が低い無担保債権の業界用語    とあるネット引用

金融機関側とすると、債務者区分を「破綻懸念先」としたことによって、銀行会計上「貸倒引当金」を積んでいるため、その時点で事実上のロスが確定します。つまり引当金を積んでしまえさえすれば、それ以降、その企業が本当に「倒産」したとしても、金融機関の決算に影響は与えることはありません(当然に引当以上にロスが発生した場合、追加損失となりますが、また逆に引当金以上に回収できた場合、利益となります)。金融機関としてもゾンビ企業が延々と生きながらえたとしても、メインバンクの使命といった情緒的な側面を除けば、本業に影響はあまりありません。

「破綻懸念先」には新規融資が出せない、営業店担当者は融資が推進できる先の訪問を優先するのは当然であり、だんだんと足が遠のきます。社長と面談するのは、決算書の徴求とリスケの契約書を半年ごといただく時のみ、そんな先も多々あろうかと思います。金融機関の足も遠のけば、その企業を支援するのは、顧問税理士くらいでしょうか。ますます再生の可能性は低くなる、という悪循環に陥いってしまいます。

廃業支援は心理的につらい・・・

それでは経済の新陳代謝として、市場から退場させる、いわゆる「廃業支援」はどうでしょうか。私の持論として、「再生可能性のない企業には退場を促す、これはメインバンクの仕事である」と信じています。私もこれまでの経験上、何度か退場を促したこともありますが、これは非常に難しい、と感じています。

実際に想像してみてください。企業の社長に対し、面と向かって「廃業してください」ということを。いち銀行員が会社を潰す、ということの責任、経営者家族の生活、従業員の生活、取引先に対してどれだけ影響を与えるのか・・、そんなことを考えることは、銀行員個人に対して心理的な重圧がのしかかります。銀行員もただただドライで非情と思われるかもしれませんが、そんなことはない。どのような形であれ、最後は「金融機関が支援してくれなかった」、という風評が出回り、金融機関に対する恨みつらみだけが残ります。破産する経営者としては、どこかに恨みをぶつけないと気が済まないでしょうが、金融機関職員としては、誰だってそんな思いは嫌だし、できれば避けて通りたいというのも人情でしょう。

さらに廃業といっても、借入金をすべて精算できるハッピーリタイアメントな廃業など、ゾンビ企業にあるはずもなく、当然に「破産」が選択肢となります(破産する資金もないケースもありますが・・)。経営者が金融機関に「破産」をほのめかすということは、その企業はある意味「支払停止」を宣言したようなものです。ということは、銀行取引約定書上の「期限の利益の当然喪失」とされ、金融機関職員は立場上、債権保全を図るため、その場でその企業の預金に「支払停止」を行わなければならなくなります。廃業支援の名目のもと、預金の支払いに応じることは、回収できる資金をみすみすスルーしたことになり、いかに引当金を積んでいるからと言っても、許される行為であるはずがありません。金融機関に損失を与えたとして場合によっては処罰の対象になります。こうしたことから、金融機関担当者が堂々と「廃業支援」が行うことができるとは、通常考えてあり得ないことなのです。

金融庁は金融機関の「廃業支援」促進するため、REVICの廃業スキームや、サービサーを活用したDPOなど、監督指針の中で推奨しておりますが、スキームの使い勝手の悪さ、担当者の心理的ハードル、債権売却と利息収入の合理性比較などからなかなか実績が伴いません。

REVIC

株式会社地域経済活性化支援機構(ちいきけいざいかっせいかしえんきこう、英称:Regional Economy Vitalization Corporation of Japan、略称REVIC)は、株式会社地域経済活性化支援機構法に基づき設立された、地域経済の活性化に包括的に資する支援、地域の中核企業の事業再生支援を行うことを目的とする官民ファンド(政府系金融機関・支援機関)である。Wikipedia

DPO

DPOとは、Discount Pay Offの略で、債権者が、全額の回収が困難となった債権について、債券の額面金額よりも低い価格で第三者に売却し、その後、債務者が当該債権を当該第三者から額面未満で買い取ることをいう。
債権放棄の場合、債権者が放棄額を税務上損金に算入するためには、一定の要件を充足する必要があるのに対し、債権譲渡の場合、対価が適正な価額である限り、債権譲渡損を税務上損金に算入することができる。 山田コンサルティンググループHP

「ゾンビ企業」は再生可能性がなく、出口は破産しかない、ならば、金融機関として、あえて、労力とリスクを冒してまで、積極的に潰しに行く必要もなく、残念ながら「自然に淘汰されることを待つ」のが得策だとなってしまっているのではないでしょうか。

じゃあどうするか

ゾンビ企業の出口としては、「破綻懸念先」の中で、再度再生可能性を検討してみること(ほとんどないと思いますが)、M&Aによる売却先を探すことも含め、廃業支援をやっていく、これしかないでしょうか。

従業員に給与すら支払うことができずに、資金繰り破綻する。これが一番困ります。多大な迷惑がかかるからです。また、私もなんども倒産事案は経験しましたが、自責の念に駆られることがしばしばです。「必要な手は尽くしたし、いつかはこうなる」とは思っているので、ある程度は覚悟しているとはいっても、それでも「どうにかすれば違った出口があったのではないか」と後悔するときがあります。それは回収不能が生じたことよりも、経営者を救えなかったという点の方が強いように思います。

コロナ禍あけの昨今の情勢を見るに、資材、人件費の高騰著しく、しかも人手不足も重なって、これまで「ゾンビ企業」といわれながら今日まで生きながらえてきた企業も、これ以上生きながらえることは難しいでしょう。ついにここでジ・エンドとなる先も増えてきそうです。コロナ資金として調達した分は、コロナ禍の赤字として消え、手元資金が枯渇する中、追加の資金対応もできません。コロナ資金の返済開始どころか、そもそも赤字で倒産するケースが多いのではないしょうか。実際に保証協会の代位弁済が増加しています。一方で「破産」するためには手間も費用もかかります。「破産」すらできない状況では、夜逃げしかなく、それでは金融機関だけでなく大勢の人にも迷惑を被ります。

やはり放っておくことは許されない。このような最悪の事態を避けるためにも、やはりメインバンクが手を指し述べていくしかないでしょう。担当者にとっては心理的なハードルは高いですが、腹をくくって取り組むしかない、それが地域に根差したメインバンクの使命であると思うしかありません。たとえ資金支援は打ち切らざるをえなくても、あとは勝手にやってくれ、というスタンスではなく、従業員や取引先を守るため、廃業に向けた相談にはメインバンクとして受けますよ、という形で取り組むしかないでしょう。なんらかの形でエンディングを迎えさせてあげるのです。

「お葬式」の重要性

私は支援打ち切りなど、厳しい方針を通告する際には、なるべくやさしく丁寧に、寄り添うように対応することを心がけています。「いままで社長、ご苦労でしたね。」などとねぎらいの言葉をかけます。社長は内心「ふざけるな」とお思いでしょうが、ここで悪態をついて、経営者の感情を逆なでるようなことをしても意味がない。こういう場面において、冷たく切り捨てる方もいますが(私の部下もそうでしたので指導しています)、それはやめたほうがよい。ただでさえ経営者の中には、金融機関に対する恨みつらみがあるなかで、最後の最後までこの調子だと、恨みはますます増幅することでしょう。これまでの取引、支援してきた経緯、支援打ち切りの方針理由、そして「支援できずに申し訳ない。」と一言添える、私はこれを「お葬式をする」と呼んでいます。これらをやるにはある程度経験が必要です、やはり「廃業支援」の経験を積んでいくしかないのかなと。

そうはいっても金融機関としてできることと、できないことはあります。金融機関が企業に「破産」を推奨するなど、担当者が一歩間違えると銀行に対する背任行為となりますので、専門機関等を介しないとできません。金融機関の役割としては、社長、経営者を説得すること、そして専門機関に橋渡しをしてやること、今のところこれ以上はできないのではないでしょうか。いずれにしても、金融機関にとっての最大回収と取引先企業の破産は「利益相反」になるので、なんらかのガイドラインがないと、なかなか踏み込むことができないように思います(いまのところ私は危ない橋をあえて渡っている)。

なお、専門機関としてはREVICがありますが、使い勝手がとっても悪いためお勧めしません。やはり地元の「中小企業活性化協議会の再チャレンジ支援」を活用することがよいのではないでしょうか。弁護士の無料相談の受付や、M&A候補先の紹介、「経営者保証ガイドラインに基づく保証債務整理」の活用などをアドバイスしてくれます。しかし、このケースでも結局出口は破産となります。M&Aなどで引き取り手が現れてくれれば最高ですがなかなか難しいです。事業継続はムリでも、せめて従業員だけでも引き受けてくれる企業が見つかれば、まあよし、でしょうか。

再チャレンジ支援

収益力の改善や事業再生等が極めて困難な中小企業や、保証債務に悩む経営者・保証人等を対象にしています。
協議会に所属する弁護士等の専門家が、ご相談者の現状を分析して、円滑な廃業や保証債務の整理などについて、説明や助言を行います。
また、必要に応じて、外部の詳しい弁護士を紹介します。弁護士にも助言します。(協議会が行うこれらの支援は無料です。)                  中小企業庁HP

経営者保証ガイドラインに基づく保証債務整理

経営者保証ガイドラインは、経営者が会社の借入金の連帯保証人になっているケースにおいて、保証債務の整理を可能にするルールです。経営者ガイドラインを利用すれば、私的整理によって保証債務を求められなくなる可能性があります。 とあるHP抜粋

まとめ

まとめ、といってもまとまりません。世間で「ゾンビ企業問題?」で騒いでいるのは、「ゾンビ企業倒産」=「銀行の決算がやばい」、なのか、「ゾンビ企業救済」=「国民の税金を無駄にしている」、なのか、そのどちらともなのか。銀行の決算については、引当済であり問題ない(だろう)、が私の回答です。国民の税金については、リスケによるコスト負担は民間金融機関が負っているものだし(株主に文句言われるならまだしも)、でも保証協会や政府系も巻き込んでいる訳なので、全部が民間ではないわけですが・・・。簡単に解決できる話ではない、のですが、私としては経済を循環させる機能を担う銀行という役割を考えると、淘汰されるべき企業は淘汰していく、そして成長すべき企業に対し資金を積極的に投下していく、この資本主義経済の王道でいくしかないのでしょうか。

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