こんにちは、あらためまして#ひろとし課長#です。よろしくお願いします。
私は某地方銀行の中小企業の事業再生セクションに、約10年間従事し、
最近まで責任者を務めておりました。
現在、中小企業の事業再生分野に携わっている方、また、中小企業の経営者の方などに、
私のこれまでの経験・ノウハウなんぞをお伝え出来たら、と思っています。
これまで、なぜ地方銀行が事業再生に取り組むのか、をテーマとしてきましたが、
そろそろ具体的な話、を述べていきたいと思います。
と、その前に私が経験した事例をひとつ
S社の事例
再生支援先のS社としましょう。
製造業です。つい数年前までは、黒字企業で「正常先」でした。
大手企業の地方工場の下請け先という位置づけで、
その主力企業からの受注割合は7割程度、
最盛期にはその企業から9割ほど占めるほど依存度が高いものでした。
ある時期から、その主力企業からの受注が減少すると同時に、不採算受注が多くなり、
他社との取引を増やしていかざるを得ない状況になっていました。
そして、ついに赤字転落(要注意先ランクダウン)となり、
再生支援に取り組む企業として、私のセクションに移されてきました。
私はまず、なぜ赤字に転落したのか?という「窮境要因」と、
黒字転換できるのか?という「窮境要因の除去可能性」を探るため、
実態把握(事業性評価の前段階)に乗り出し、
当社の場合は、製造業であり、技術的にどうか?という観点から、
外部専門家(コンサル会社)を活用することとしました。
S社は、製造業によくありがちなのですが、とにかく工場の稼働を高めることが第一で、
取引先ごとや、製造製品ごとの採算の管理が怠ってました。
製造業を再生させるには、製品ごとや取引先ごとの採算状況がわからなければ、
今後の「打ち手」が見えてきません。
たまたまS社には、データの整備だけはしっかりできていたので、
専門家にデータを渡して、分析を行わせました。
その結果、やはり主力先であった企業のほとんどの製品は赤字ということがわかりました。
なぜ赤字かというと、当然単価の引き下げ圧力もあるのですが、
短納期、小ロット受注というもうからない仕事がほとんどだったのです。
大手企業の地方工場が企業城下町(とまでいかないが)を形成し、
地元中小零細の製造業が、その下請けを形成しているケースはよくあることです。
その大手企業が海外移転することや、製品ライフサイクルの関係などから、
製造する製品が変更となると、下請け企業には大きな影響が現れます。
当社もそのひとつで、主力企業がこれまで当社に発注していた製品が、
海外にシフトした結果、主力企業での国内工場は特急品の取り扱いなど、
国内で製造するしか不可能な製品だけに限定されてしまっていたのです。
その実態が分かった当社の再生の道筋は、
①主力先企業の不採算受注はお断りする、単価の引き上げ交渉、ダメならば受注拒否。
②地道な営業活動により新規先を増やす。
という方針を掲げました。
当時、私が社長とヒアリングしていた内容では、
主力先以外の新規先から話がいくつか来ている。
これらが決まれば、完全に穴埋めできなくともなんとか事業継続はできる。
社長の子息が、当社に入社し、営業専担者として活動する。
と聞いておりましたので、
まあ厳しいけど、この方法しかないな、と思い了承しました。
銀行員は怖い?
その後計画を完成させるため、月に1度のペースで当社を訪問しました。
しかし社長からは新規先の話はよく出るのですが、
主力先との交渉の話が、いつも口ごもるというか、はっきり答えない。
専門家に「主力先との交渉はどうなっているのか?」と問うてみたが、「進んでいない。」という。
方向性を決めたのになぜ行動しない?
社長の行動の遅さに疑問というか、腹にすえかねた私は、
営業店の支店長とともに、社長に決断を促すべく面談しました。
「不採算受注をやめること」これが再生の肝となるはずだが?
わかっています。
わかっていてなぜ行動しない?
・・・・・・
#ひろとし課長#:なぜ行動しない(怒)
社長:
受注を切ってしまうと、売上が減少する、資金繰りが回らなくなる。
#ひろとし課長#:
売上があるといっても、赤字が拡大するだけでしょ?なぜやらない?
そんなことをしたら、銀行さんの約定返済の資金が足りなくなる。
???????????
私は一瞬驚いたというか、正直思考停止してしまいました。
銀行の返済ができなくなるから、赤字受注を継続している?
社長、銀行の返済は気にしなくよい。当面は返済を止める(リスケする)から。
社長:え~そんなことをしてくれるんですか?
えっ?????
社長には、経営改善に取り組み、再びCFが確保できたところで、返済を再開すればよい。
社長は心配しないで本業に勤しむこと。これを伝えたところ、
まさか銀行さんがそんなことを言ってくれるとは思わなかった。
・・・・・・
この瞬間を目の当たりにした私は、いろいろ考えました。
社長は銀行のことを本当に信用していなかったんだろう。
経営面のまずいこと、ましてや「リスケしてほしい」なんてことは口に出すこともできなかったのか。
ある人が言っていたことを思い出しました。
「経営者は銀行員が怖いんです。」
だから資金調達するときは短期資金よりも、期限の利益の長い長期資金を要求するのだと。
事業再生のとっかかりから、「リスケありき」を伝えることはよくない、と思っていましたが、
社長を不安な思いにさせてしまったこと、大変申し訳ない、
また、これだけ長く当社と取引していたのに、銀行は信頼されていないとは、
ホントに情けない、と思いました。
その後、計画が完成し、当社はリスケだけでなく、赤字資金まで対応。
社長は主力先に対し、強力に値上げ交渉に取り組みました。
途中、非常に厳しい局面に陥ったこともありましたが、値上げの成功と、新規先との取引成功により、
現在では2期連続で黒字確保するまで回復。
リスケしていた融資金も返済再開、現在では、正常化に向けたリファイナンスするよう検討中です。
S社は再生の手前段階のステージまで到達することができたのです。
この事例から
普段何気なく、訪問して、会話している取引先の社長。
でも社長の腹の中は、銀行員のことがどのように映っているのでしょうか?
「この銀行さんは、いざという時、当社のことをどの程度支援してくれるのだろうか?」
もしかしたら、疑心暗鬼で見られているかもしれません。
そういう社長は、プラスの情報は銀行に与えても、マイナスの情報は一切与えません。
なぜならば、マイナス情報=融資回収されると考えているのかも。
私が残念だと思ったのは、長年のメイン先であり、支店長まで訪問しているのに
当社に対する信頼はその程度だったのか、ということです。
教訓とすると、信頼関係の構築なくして、地方銀行としての商売は成り立たない。
これは事業再生の分野だけでなく、銀行という商売は、すべてにおいてそうだ、と思うのです。
銀行員諸君は、
社長にいざという時に信頼してもらえるよう、日々努力するべし。
コメント