こんにちは、あらためまして現役地方銀行管理職の#ひろとし課長#です。
私は某地方銀行の中小企業の事業再生セクションに、約10年間従事し、
最近まで責任者を務めておりました。現在は営業店で管理職を務めております。
現在、中小企業の事業再生分野に携わっている方、また、中小企業の経営者の方などに、
私のこれまでの経験・ノウハウなんぞをお伝え出来たら、と思っています。
今回は、#ひろとし課長#が実際に体験した実例です。
再生企業が「粉飾」の事実を暴露した、というケースで。
老舗卸の企業
当社は首都圏にある食品関連の卸業者。
仮にK社としましょう。
なぜ首都圏の企業さんが登場するかというと、
当行の東京地区の某店の昔からのお客さんだったのです。
ここ数年、当行の債務者区分は「要注意先」。
まあ、老舗の卸業ならば、よくあることでしょう。
K社は、東日本大震災の影響を受けた(らしく)、それ以降の業況はジリ貧でした。
利益ちょぼちょぼという感じで粉飾?の匂いのする企業でした。
こんな首都圏を基盤とする企業に対して、地元中小企業支援をミッションとする
#ひろとし課長#が、なぜ登場するかというと、
メインのメガバンクが引き始めて、いよいよ資金繰り的にやばくなってきた、
という理由からでした。
別に県内企業でもないし、なぜ私のところで?
という考えはあったのですが、融資額もそれまり、保全不足も多かったため、
支店長や、担当審査役から、
「とりあえず同行訪問願います。」ということで。
私も、たまには東京出張もいいか、帰りに飲めるし(コロナ前の話)、
それくらいの軽いノリで当社を訪問しました。
若社長
支店担当、本部の審査役、そして私の3人でK社を訪問しました。
すると、「社長就任祝い」という
お祝いの花が複数玄関に飾られていました。
社長が変わったのですか?
支店担当も初めて聞いた様子で(この時点で関係性がよろしくない)、
前社長(会長)と、もうひとり少し小太りの青年がでてきました。
このひとが新社長?
見るからに頼りなさそうな感じの青年でした。
この会社には、代々メガバンクから出向している経理担当部長がいて、
資金面の管理は、そのメガバンク出身の部長が握っておりました。
聞くところによると、ご自身出身のメガバンクは近年厳しい態度を示しており、
しかも、現部長退職後には、メガバンクからはもう出向させない、という方針のようです。
メイン行が資金対応できないならば、
金融機関にリスケをお願いするしかないでしょう。
もし難航するならば、中小企業再生支援協議会に入ってもらう。
私から、支援協議会に話をしてもよい。
そこで経理担当部長は、
リスケをお願いすると、割引をお願いできなくなる。
もし割引ができないと、資金繰りがもたない。
最近メイン行も、地元信用金庫も業況が悪化してから、訪問頻度が少なくなった。
さすがに私も、無責任な発言ができないため、
だったら、信用金庫にリスケ後も割引ができるか確認してほしい。
地元信金ならば、事情を説明すれば理解してもらえるのでは?
時間がないので、すぐに確認してほしい。
経営改善への取組みは、御社がその気ならば、当行はできる限りの応援はします。
経理担当部は、ああ、わかりました。~的な発言で、
社長、会長もあまり反応なし。
以前のブログで記載した、まだなんとかなる的に、甘く考えている会社なんだな、
県内企業でもないし、地元金融機関が支えないならば残念ながら無理かも、
的に思いながら、せっかくだから事務所内を案内していただくのと同時に、
課題となっている在庫を確認したのでした。
倉庫には商品在庫がギッシリ。高く積まれた商品は、奥の商品はどうやって出すんだろ?
稼働在庫と、確かに少し傷んでいる、古そうな在庫が確認できました。
これだけの在庫だと、回転率はどの程度ですか?
すると、先ほどの会議では全く無口だった若社長が、
2か月くらいで回ってしまいます。
と、ハッキリ答えます。
2か月?それって、正常在庫の回転期間のことかな?
おかしいな?と考えている間にも、
この商品は〇〇〇〇。
この商品は〇〇〇〇。
この商品は〇〇〇〇。
と会議では全くの無口だった社長が、
商品在庫の説明の時には、目を輝かせて、生き生きと話すではないですか。
前のS社のケースもそうですが、本業や商売の話になると、
急にスイッチの入る経営者は多い。
銀行員がいかに、経営者と本業の話をしていないかということ。
それでは、メイン行や地元信用金庫に確認しておきます。
といって、その日は引き返しました。
しかし、その後しばらくして、新型コロナが蔓延。
当社も相当に打撃を受けた様子ですが、
政策公庫や保証協会から「コロナ資金」を調達したおかげで
なんとか、資金繰りがつながった様子。ところが、
若社長覚悟きめる
コロナ資金が調達できた当社は、資金繰りはなんとかつながりました。
ところがその間、なんら改善に取り組むことなく、
調達した資金は通常に仕入れに使うなど、平時の対応を取り続けました。
その結果、
支店担当から、「いよいよ資金繰りがやばいです。どうしましょうか?」
私は、こちらが提案した話はどうなってるの?
自社が本気で取り組まないのならば、もう知らないよ。
と頭にきていたのですが、
経営陣と経理部長を責め立てるつもりでいたので、
最初の訪問から約半年以上経過後、K社を再度訪問しました。
経理担当部長からは、コロナ影響で販売が進まないこと、在庫が積みあがったこと、
これ以上メイン行や保証協会も含め、追加の資金調達はお願いできないこと、
などなど、言い訳がましいことを抗弁しておりました。
そこで、
若社長、あなたは今後どうしていきたいの?
今後の経営のかじ取りは若社長、あなたなのでしょ?という意味を込めて聞いてみると、
なんとかなるだろう、と考えていた私たちの考えが甘かった。
お客さんにも迷惑かけるわけにいかないし、なにしろ従業員は守りたい。
営業の強化、経費圧縮、取り組めるものには私が責任をもって、すべて取り組みます。
私たち経営陣は、どうなっても構わないです。
なんとか会社を残していきたい。
金融機関さんには、私がお願いに回ります。
協力をお願いします。
あの、大人しそうな若社長が、言葉はたどたどしいけれど、
真剣そのものでした。
若社長の真剣な眼差しに、ある意味感じるものがあった私は、
社長、言ったね。約束したからね。
若社長の覚悟はよくわかりました。
私は決断を促しにきたのは今回が2度目だ。次はもうないからね。
よろしくお願いします。
しっかりやりぬきます。
私たちは、田舎からわざわざ当社に出向いて、
状況確認しているにもかかわらず、
メイン行であるメガバンク、地元金融機関はなんの反応もないとのこと。
そうはいっても我々にもできることにも限界があります。
やれることはやってみます。
K社は当行にとって、メイン行でもなく、しかも地元企業でもない。
ただ当行との取引は古く、それなりの貸し出しもあるという先。
たまたま、私がK社を訪問して、代替わりしたばかりの若社長と面会し、
若社長の決意を目の当たりに、「最後のチャンスを与えてあげよう」
と深く感じ入ってしまったことが、当社支援のはじまりでした。
まさに人間と人間のぶつかりあいなのです。
次回に続きます。
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