こんにちは、あらためまして現役地方銀行管理職の#ひろとし課長#です。
私は某地方銀行の中小企業の事業再生セクションに、約10年間従事し、
最近まで責任者を務めておりました。現在は営業店で管理職を務めております。
現在、中小企業の事業再生分野に携わっている方、また、中小企業の経営者の方などに、
私のこれまでの経験・ノウハウなんぞをお伝え出来たら、と思っています。
さて、中小・零細企業に対する事業再生の取組みについて、
- 資金繰り状況は確認できました
- 社長との目線合わせも完了しました
- 窮境要因も特定できました
- 再生可能性も十分あるものと認識できています
ということで、いよいよ「再生計画」というものの策定にはいっていくことになります。
ここからは、ちょっと専門図書に記載あるような、教科書的な内容になってしまうので、
数字やマニュアル的な内容はなるべく割愛し、考え方を中心に述べたいと思います。
なぜ経営計画が必要になるのか?
いまさらですが、そもそもなんで計画を作るのか?
なんで金融機関が取引先企業に計画の作成や提出を要求するのでしょう。
当たり前のことですが、経営改善計画書は企業が作成するものです。
通常、中小企業が計画を作るものは、年度の予算計画を達成するためのものが多く、
従業員に数字の目標、ノルマを張り付けて、さあ、やるぞ~、て感じなものでしょうか。
数字の目標には、社長の「なんとか事業規模を拡大していきたい」
といった思いなどがあるのでしょう。
いずれにしても、事業計画というものは、企業が自身で活用するためのものなのです。
しかし、金融機関に提出する「経営改善計画書」というものについては、
金融機関に承認をとる、という作業が加わります。
つまり、企業が作成して、社長が「よし、これでいこう」としたとしても、
金融機関がNOとすると、先に進むことができません。
事業再生企業が、作成する経営改善計画は、
自社活動のために使用するという目的と、もうひとつ、
金融機関に対し、今後どのように返済をしていくのかを約束するための資料
という役割もあるのです。
金融機関が認める計画とは?
業況改善に取り組もうとする社長が、従業員を叱咤激励するために、
大幅増収するシナリオの計画を作ったとしても、
金融機関に約束する経営改善計画書なるものは、「実現可能性」を絶対重視するので、
金融機関が「それは無理でしょう」とした計画には、承認を得ることができません。
逆にたとえ今は赤字であっても、
近い将来には、CFを確保できる(確率が高いと認められる)計画であれば、
今現在においては、ゼロリスケや新規与信対応していても、
近い将来には間違いなく返済が進んでいく(ことが想定されるので)、
「承認する」となるのです。
ここでひとつの「考え方」を紹介します。
事業再生の専門用語で、「経済合理性」という言葉があります。
極端な言い方をすると、
- 企業の支援を打ち切って、倒産させて担保等による回収
- 資金繰り支援を継続して、再生させて回収する
金融機関は、このどちらに実現可能性があり、回収の極大化が図れるか
という判断をします。
1.の場合は、完全に再生の絵が描けないケース
2.の場合は、成功すれば回収の最大化は図れるでしょうが、
事業再生には、当然に「不確実性」というものがつきまといます。
必ずしも再生する、とは限りません(そんなに甘いわけではないので)。
かえって、支援継続方針としたばかりに、金融機関の損失がかえって大きくなる。
たとえ回収0円であったとしても、これ以上再生企業に費やす労力等を考えれば、
ここでつぶしてしまったほうが、というケースは多々あります。
「支援継続する」のか、それとも「支援打ち切り」とするか、
この二択はできれば銀行員人生で経験したくはない究極の選択なんです。
私は、本部の再生セクションに在籍中はもちろん、若い営業店時代から、
こんな経験が多々ありまして、そのような銀行員人生を歩んでしまったようです。
合実計画とは
究極の選択に至る前に、「この再生計画なら銀行も応諾できる」
という、いわゆる「再生の合理性」を図るための水準、数値基準として
「合理的かつ実現可能性の高い計画」=合実計画
というものが、金融庁から示されております。
合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画(通称:合実計画)
① 経営改善計画等の計画期間が原則として概ね5年以内で、かつ、計画の実現可能性が高い こと
ただし、計画期間が5年を超え概ね10年以内となっている場合で、進捗状況が概ね計画どおり(売上高・当期利益が事業計画に比し概ね8割以上確保されていること)であり、今後も概ね計画どおりに推移すると認められる場合を含む。
② 計画期間終了後の当該債務者の業況が良好で、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる状態(自助努力により事業の継続性を確保することが可能な状態となる場合は、金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある状態、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題のある状態のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある状態など今後の管理に注意を要する状態を含む。)となる計画
③ 全ての取引金融機関の経営改善計画等に基づく支援の合意があること
ただし、単独で支援を行うことにより再建が可能な場合等は、当該金融機関の合意で足りる。
④ 金融機関等の支援の内容が、金利減免、融資残高維持等に止まり、債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金提供を伴うものでないこと
金融庁HP
まあ抽象的でよくわからないとおもいます。
合実計画の数値基準については、「中小企業活性化協議会」で示されている、
基準がわかりやすく参考になります。
- 3年以内:経常利益黒字化
- 5年以内:債務超過解消(中小企業の場合10年で可)
- 10年以内:債務償還年数10年以内
この数値基準が示されている計画であれば、基本的に金融機関は応諾するはずです。
なぜならば、合実計画に同意すると、
条件緩和債権を外すことができる、
という金融庁の監督指針が示されているからです。
(長くなりますでの、ここらの話はまた別の機会に紹介できたらと思います)
ただし、単純に数字だけ基準をクリアしていても、
本当に実現できるのか?がポイントになりますんで、
根拠のないような売上計画やコストカット計画、
自社の現有勢力では実現できないようなアクションプラン
などが羅列されていても、認めるはずがありません。
あくまでも、その名の通り、実現可能性が大事なのです。
合実計画とならない場合
逆に、「合実計画」の数値基準に達しなくても認めるケースもあります。
多額な債務超過に陥っている企業、中小企業特有の低収益ビジネスモデル、
どうしても数値基準には届かない、ということも多いです。(そのほうが多いです)
こうした場合の金融機関の判断とすると、
長い目で見れば再生可能である、社長に覚悟が決まっている、
などなどの要素をくみ取って、計画を承認する、ケースは多いです。
ちなみに、合実計画の数値基準に至らない計画を「暫定計画」と呼びます。
再生可能性が認められているが、合実計画が作れない。
金融機関が支援を継続するという方針さえあれば、この「暫定計画」を承認し、
経営改善に取り組ませるという展開となります(少なくとも当社では)。
ただし、いつまでたっても赤字が止まらない、黒字転換できない先、
つまり本業CFが確保できない企業については、残念ながら見限るしかないと思いますが、
最後の最後まで再生の可能性を探ります(少なくとも私は)。
金融機関でない方からすると、
銀行員は何考えているかわからない、数字しか見てくれない、
などと思われている方もいるかもしれませんが、
そんな訳ありません、銀行員も人間です。
特に地方銀行員は、地元を愛する気持ちは必ずあります。
お客さんに対して、少なくとも「なんとか頑張ってほしい」と思いますし、
「俺が助けてやる」というような、格好の良い言葉も言ってみたい。
ましてや、「支援はできません。」なんて、言うのはつらいです。
何度も繰り返しますが、事業再生は人間と人間のぶつかり合いなのです。
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