" /> 現役地方銀行員の事業再生ブログ【21日目】計画と貸倒引当金の関係について - 地方銀行員が語る「中小企業再生支援」の現場

現役地方銀行員の事業再生ブログ【21日目】計画と貸倒引当金の関係について

事業再生

こんにちは、改めて登場します#ひろとし課長#です。

某地方銀行の中小企業の事業再生セクションに、約10年間従事しました経験を活かし、

現在、中小企業の事業再生分野に携わっている方、また、中小企業の経営者の方などに、

私のこれまでの経験・ノウハウなんぞをお伝え出来たら、と思ってブログ書いてます。

金融機関が計画策定を求める理由

前回に続き、なぜ計画が必要なのか?なんですが、

今回は少し毛色の違う話になりますかね?

金融機関がしきりに「計画を、計画を」、と進めてくる場合には、

いくつか理由が存在します。

ホント純粋に「計画作ってしっかり取り組めよ」

というメイン行としての本音ベースの話から、ということも考えられますが、

いままでそんなこと全く言わない金融機関がそんなこと言うのは、

なんらかの下心が考えられます。

計画策定の手数料をいただきたい、また専門家のマッチング手数料をいただきたい、

いわゆる「手数料収入」獲得のため、これも十分に考えれます。

ただし実際は、再生局面の企業から、金融機関が相応の手数料をいただくことは、

優越的地位にあたるので、なかなか難しいです。

とすると、そんな手間暇かけて、計画を作って(一緒に作って)、

モニタリングまで付き合う理由とは、なんでしょう?

ここに、金融庁の監督指針、というインセンティブが働くのです。

「特に、実現可能性の高い抜本的な経営再建計画に沿った金融支援の実施により経営再建が開始されている場合には、当該経営再建計画に基づく貸出金は貸出条件緩和債権には該当しないものと判断して差し支えない。

金融庁HP

このような内容が、金融庁の監督指針に記載されています。

ここで述べている「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」に、

合実計画が当てはまります。

つまり、合実計画策定先は貸出条件緩和債権に該当しない、となるのです。

なお、貸出条件緩和債権というのは、

貸出条件緩和債権は、銀行法施行規則において、「債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取決めを行つた貸出金」とされている。

金融庁HP

ようするに、リスケ債権=元金据え置き、期限延長、金利減免など、

業況が苦しいので、金融機関に資金繰り支援のため、

「借入金の当初条件を変更してほしい」、とお願いし、

金融機関がそれに応じ条件変更を行った債権のことなのです。

金融機関としても、取引先企業の支援のためには、リスケに応じることはやぶさかではないのですが、

貸倒条件緩和債権に該当することはなるべく避けたい、ものです。

金融機関が計画策定を進める理由のひとつとして、

この貸出条件緩和債権に該当させないために、ということもあるでしょう。

なお、リスケしても貸出条件緩和債権としない方法として、

金利を引き上げる、という手法があるのですが、

条件変更するかわり、金利UPする、当たり前のような話なのですが、

再生支援企業に対し金利を引き上げるというのは、

ただでさえ、資金繰りが厳しいという先に対してなので、現実的には難しいのです。

計画と貸倒引当金

それでは貸出条件緩和債権を避けたいとする理由とはなにか?

ここから、あまりにも実務的な話になってしまうので、なるべく簡易に説明しますが、

取引先企業からの申し出により、リスケ対応して、

それが「貸出条件緩和債権」と認定されると、

「貸出条件緩和債権」=債務者区分は「要管理先」以下となります。

現在の債務者区分が「要注意先」だった企業が、リスケ対応によって、

その債権が条件緩和債権となった場合、債務者区分は原則「要管理先」にダウンします。

さらにBSの悪化が進行している企業は、その下の破綻懸念先」にダウンする可能性もあります。

金融機関の貸出金は、通常デフォルト(債務不履行)に備え、貸倒引当金を計上しています。

この貸倒引当金は、債務者区分毎に引当率が決まっているので、

債務者区分がダウンすると、その債務者の貸出金に計上している、貸倒引当金を積み増す

という作業が必要となってしまいます。

この貸倒引当金の引当率というのは、金融機関によって異なるのですが、

通常、要注意先から要管理先にダウンした場合、引当率は約10倍ほど跳ね上がってしまうのです。

もし「破綻懸念先」までダウンすると、貸出額にもよりますが、

担保できてない部分(非保全という)は、

全額引当金として計上しなければならない可能性が生じます。

金融機関にとって、この引当金の過多が決算に直接影響するので、

金融機関の経営陣は、決算前になりますと、引当金の動向をとても気にしています。

特に大口債権者の債務者区分が、「要注意先」から、

「要管理先」、「破綻懸念先」にダウンすると、

自行の決算が赤字となることにもつながりかねません。

再生支援先などは、通常、PLは赤字、かつBS上は、債務超過で借入過多という先がほとんど。

つまり、単純に債務者区分を判定すると、「破綻懸念先」に該当してしまう先がほとんどなのです。

このランクダウンを回避するためにも、どうしても企業に合実計画を作らせる必要が生じるのです。

ランクダウン防止=「追加引当防止」のためには、計画(合実計画)の策定により、

なんとか債務者区分を「要注意先」にとどめる、これが必要となるのです。

引当金のシミュレーション

これまで格好いいこと言って、それが真の理由なのか?

という意見もあろうと思います。

しかし、前にも述べましたが、この合実計画というものは、

「実現可能性」というものが納得いくものでなければ、金融機関は合意することはできません。

ですから、数字があればいいというものではないのです。

また、当然ですが、計画を策定したからと言って、企業が必ず再生するという訳ではないので、

結局破綻してしまうと、金融機関は多額なロスを計上しなければなりません。

大口貸出先の合実計画を作るのは、容易ではありません。

たとえメイン金融機関が「実現可能性のある計画だ」と判断したとしても、

下位行の満足のいく内容でないため賛同が得られなかったり、

最近では、金融庁は債務者区分の判定について、検査指摘することはなくなった?のですが、

自行の監査法人と債務者区分についてバトルになったり、

計画策定、合意形成するまでの過程は大変なものです。

また金融機関全行合意が得られたとしても、計画の数値が実現しなければ意味がなく、

計画策定後も、計画の進捗状況をモニタリング管理するといった、仕事が続いていくのです。

ちなみに私は、再生セクションに在籍した10年間、決算期には自行の決算状況と、

大口先の債務者区分の検討、ランクダウンの可能性や引当のシミュレーション、

この作業のため、なんども数字と「にらめっこ」したり、監査法人との激論など

これもなかなか大変なものでした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました