こんにちは、#ひろとし課長#です。
リスケかリファイかをテーマにした内容から、
金融調整が泥沼化してしまったG社の事例について、
これまで述べてきましたが、今回最終回です。
この事例は、メイン行主導で金融調整を行ったものの、
再生支援企業に対する窮境要因の把握が甘く、
また、金融支援も中途半端で、
メガ行、政府系にも反発をくらい、
再生支援協議会の仲裁により、なんとか、政府系さんとは関係修復が図れました。
いよいよ、計画完成間近です。
G社の事業再生の現場
計画策定に向けて大詰めを迎えています。
G社がなぜ、赤字となった新規事業に手を出したかというと、
本業において、主力先からの受注減少が背景にあります。
その売上の減少分を、この若社長が、新規事業によって取り返そうとしたためでした。
この新規事業については、今回の計画策定着手する前に、
すでに社長が撤退を決断したものの、
今回のDDによって明らかとなった
従前は外注していた分野を「内製化したことによる固定費増加」については、
内製化した人員を削減したらどうか?
もとの外注扱いとしたらどうか?
これはこの事業を成功させるための私の夢なのです。
業界として生き残っていくためには、一気通貫で行うことが必要なのです。
と、こんなチャラいような服装をしている人でも、考え方はしっかりもっているようだ。
しかもなかなか、頑固なところがある。
あまり、あれもダメ、これもダメ、というと
目線が離れることもあり、ここはいったん、社長に譲ることとし、
条件付き(計画未達ならば撤退を再検討)としました。
一方で問題となった、
パワハラ上司については、無事に身を引いていただくことにしました。
そして、部門間の不協和とかも、社長が社員ひとりひとりに話を聞いていくこととし、
さらに、これまで人海戦術で行ってきた作業も、システム投資(DX化)をすることで、
生産性向上を図ることとしました。
G社の強みは、企画、製造卸売が一気通貫でできることなのですが、
意外なことに、この社長の営業力はすごいのです。
主力先の落ち込み分は、海外その他の新規先からカバーすべく、
社長自らが獲得に動いていました。そしてそれなりの実績がともなっていました。
さて、メイン行である当行はといいますと、
当社再生に向けた金融支援としまして、こんなことをG社に提示しました。
- 長期運転資金(当面の手元流動性を確保するための、新規対応)
- 設備資金(システム投資 新規対応)
- 経常運転資金(在庫担保ABL 新規対応)
- 既存証書貸付のリスケ(初年度はゼロ、2年目以降CFに応じた返済計画)
既存証貸のリスケ以外は、当行単独です。
われながら、再生支援先に、ここまでやるか、というような対応だと思います。
最後の一波乱
新型コロナウイルス感染症の騒ぎがではじめたころです。
G社の泥沼の金融調整はひとまず落ち着いていたとき、
私は当行としてのコロナ対策の立案に追われていました。
ところが、支援協議会から、メガ行からある要望があるという連絡がありました。
メガ行が他行が約定返済を進めているのは不公平だ、と言い出してます。
そもそも、G社が赤字の中、返済を継続できているのは、
自行(メガ行)の定期預金を解約したおかげではないか。
にもかかわらず、自行(メガ行)には返済充当がない(少ない)
不公平だ。
というような主張でした。
私は、なにをいまさら、
そもそも、定期預金で自行の分を相殺しろ、といったにも関わらず、
実行しなかったのではそちらでは?と思っていましたが、
私に考えがあります。任せといてください。
ということで、支援協議会にしばらく任せておきました。
その後、
私がすでに帰宅して、自宅で家飲みしていた時のことです。
私の部下から私の携帯に着信がありまして、
「#ひろとし課長#、大変です。G社がメガ行に、一部返済を行ったようです。」
????????
なにが起こったの?
話を聞きますと、こういうことのようです。
メガ行が、G社社長に対し、
融資シェアに応じて、当行(メガ行)にも返済充当してもらいたい。
と、支援協には伝えたら、そのように調整する、と言っている。
と、主張したことろ、
わかりました。
なんと、二つ返事で応諾し、契約書に署名してしまったとのこと。
どうやら、支援協議会の「考えがある」というのは、
支援協が介入してから(これを※二次対応といいます)、
約定返済を進めている金融機関と、返済を止めている金融機関の
あまりに公平性(衡平性)に欠けているので、
プロラタによる内入れ調整しようというものでした。
中小企業再生支援協議会(現活性化協議会)二次対応とは
一次対応のヒヤリングの結果、相談企業からのご要望があり、二次対応(再生支援)への移行が妥当と思われる場合(資金繰りに当面は支障なく、計画を策定することで事業価値の向上が見込める場合等)は、相談企業より守秘義務を解除していただいたうえで、メイン行等にヒヤリングを実施し、協力が得られる場合は、二次対応(再生支援)へ移行します。
二次対応に移行した後は、外部専門家(主に公認会計士・中小企業診断士)による個別支援チームを組みます。案件によっては弁護士に入っていただきます。外部専門家の費用が発生することになりますが、費用の一部を協議会が負担します。
協議会がアドバイザーチームの専門家を選任します。(公認会計士・税理士・中小企業診断士など)
中小企業活性化協議会HP参照
支援協は、それは計画合意形成時にそれを実行します、としたのですが、
なんと、メガ行は単独でG社社長に話を進め、
支援協議会からの提案です。
計画合意形成前にもかかわらず、G社がメガ行と勝手に契約してしまったそうです。
二次対応期間中に、金融機関が勝手に、繰り上げ返済を要求したり、
追加担保を請求することは、御法度なはず。
それはあまりにもルール違反。
支援協は許したのか?
G社の社長はなんと言っている?
そもそもこのことは、営業店の支店長に相談あってのことか?
あまりにも怒り心頭であった私は、3人に対し、
なにメガ行に勝手なコトやらしてるんだ(怒怒怒)。
「申し訳ありませ~ん。」(その3人)
さらにメガ行に対して、電話で抗議。
支援協の二次対応期間中に、
先んじて回収に走るなど言語道断。
今回のやり方は、あきらかにフライングだ。
そ、そ、それはすみません。
・・・・・・
それは、こういうことです・・・・
(電話中にマニュアルを取り出してきて応対した様子)
このメガ行の課長さんは、別の案件でもよく顔を合わせる間柄で、
若く、とても一生懸命やる人だったのです。
とにかく、わからないことは理解したい、というしっかりした人でしたので、
あまり厳しいことは言いたくなかったのですが、
今回の件は腹に据えかねたので、
言葉が行き過ぎを詫びながら、電話にて抗議しました。
メガ行以上に頭にきた3人に対し、
G社の社長には、今後はなにがあっても必ず支店長に相談すること、
支店長には、しっかり社長をグリップすること、
支援協には、メガ行の対応は腹に据えかねるので、
メガ行にしかるべき制裁対応をすること。
おのおの指示しました。
計画合意のバンクミーティングです
ついに計画が完成し、いよいよ計画合意のバンクミーティングです。
新型コロナの関係で、「三密回避」という直前だったでしょうか、
なんとか、リアルでバンクミーティングの開催を行う運びとなりました。
しかし、メガ行さんは、コロナを理由に不参加したのです。
当社の再生計画は、コストカットによるだけでは黒字転換できず、
「ビジネスプロセス転換による生産性改善」
という人の動きを変えることを骨子に織り込んだ
ホントに難しい計画なのです。
バンクミーティングでは、外部専門家から窮境要因の原因、除去可能性、
アクションプランについて、一通りの計画の説明があり、
最後の金融支援策については、前項に示した通り、
当行からかなり前向きの方針を示しました。
最後に支援協から、
なにか質問、ご意見があるでしょうか?
バンクミーティングというものは、みな様子見の姿勢が多く、
よっぽど「なにか言いたい」という金融機関がいないと、
しばらくは誰かが発言するまで、黙っているというのが普通?です。
だけど、これまで、あれだけ、いろいろ、いろいろありました、
今回のバンクミーティングにおいて、なんの発言もない?
そりゃないだろ。
また、怒りが込み上げてきた私は、
はい、と挙手し、
本日のバンクミーティングを迎えるまで、入り口の段階で、各行にとって、思わしくない点があったことはメイン行に責任があることは十分に認めます。
本日示された、G社の再建計画は、実現可能性が難しいことも十分ご理解いただけたでしょう。
金融機関には、おのおの立場というかスタンスというか、異なることは承知しています。
しかし、日本中がコロナ感染で意気消沈としている中で、金融機関同士が争っていてどうなる?
G社もすでにコロナ影響を大きく受け始めている。
ただでさえ、実現可能性が難しい計画を、これまでのように金融機関同士が足を引っ張ってどうなる?メガ行さんは出席していないが、彼らの意見はどうなのか?
これ以上、時間をかけてる暇はない。
早急に計画同意を取り付けて、G社再生に注力するべきだ。
し~ん・・・・・・・・・
他行さんは、あいつなんか怒ってるよ。
って感じで、その後もなんの発言もありませんでした。
結局バンクミーティングは、私の演説以外は、シャンシャンで終了。
閉会後に、政府系さんがツカツカと私のところにあいさつにきて、
「うちは、計画に同意しますので。」
わたしは、あれだけ文句言ってたくせに、とは思いながらも、
理解していただけたことはホントによかったと思いました。
その後、欠席したメガ行も同意となり、
G社の再生計画は無事合意となりました。
わたしは、フライング回収したことについて、支援協に苦言を呈しましたが、
「まあ、まあ」ということでなだめられ、丸く収められてしまいました。
G社その後
G社のその後ですが、
G社のようなファッション系のビジネスは、コロナ禍において
業界的に大いに苦戦しました。
主力先が、百貨店、催事、イベント、海外などでしたからです。
それでも、G社社長の営業努力もあり、
計画2期目でわずかながら、黒字転換を実現したのです。
コロナでしばらく社長とは会えていなかったのですが、
久々にお会いした時には、なんとなくたくましくなったように感じました。
ビジネスプロセスの改善による生産性改善は、まだまだ道半ばでありますが、
実現に向けて、コンサルティングファームと取り組んでようです。
G社の支援の事例としては、あらためて金融調整の難しさ、というものが
骨身に染みるほどわかった事例です。
G社の代取のがんばりや、もともと実力があった企業なので、
再生ステージから、成長軌道に乗ってきましたが、
ここで間違えなく言えることは、金融機関同士が、あのまま分裂していたら、
G社は資金繰り破綻していた可能性が大です。
金融調整というものは、支援協(現:活性化協議会)の仕事、かもしれませんが、
金融機関同士が再生支援のために団結(とまではいかないものの)するためには、
やはりメイン行という存在が、どういう方針で、どういった支援を行うのか、
カギになると思います。
それによって下位行がついてくるのかこないのか、
こういう金融機関のポジショニング戦略、心理戦、駆け引きみたいなものも
重要になってくるんですよね。
時には平身低頭、時には威圧的に、時にはハッタリでも前向きに。
これは、私の課長デビュー戦にしては、超ハードな物語でした。
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