こんにちは、私は現役地方銀行員の管理職を務めています。
#ひろとし課長#といいます。
今現在は、某営業店の管理職として従事していますが、
それ以前の約10年間、銀行の「事業再生セクション」に在籍し、
最近時まで責任者を務めておりました。
そんな経験を活かし、「地方銀行の事業再生」をテーマにしたブログを執筆しています。
なかなかマニアックなテーマですし、見せ方も、演出も、ど素人なので、
なかなかPVが増えませんが、まあ、めげずに、マイペースで、書いています。
今回のテーマは、「債権放棄」です。
企業が経営破綻したとき、金融機関などが持つ債権の全額、または一部を放棄する措置。債務者の側からみれば「債務免除」に当たります。 企業の倒産を回避するために、銀行などによる支援策のひとつとして実施されることがあります。また、債権放棄した場合、税務上の貸倒損失として損金算入が認められる場合があります。
ネット検索
金融に携わらない方でも、この言葉は存じ上げているでしょう。
悪い言葉で言うと、「借金棒引き」、「チャラ」にする、ということでよよね。
「債権放棄」も事業再生の支援手法のひとつであります。
今後、アフターコロナにおける事業再生において、「債権放棄」が増える、
などと言われておりまして、ここらへんをテーマに私見を述べていきたいと思います。
債権放棄について
「債権放棄」とは、企業の借金の一部を免除することですが、
企業側からは「債務免除」、金融機関に「借入金の免除」をお願いする、と言い方をします。
金融機関側としては、債権を放棄、よく再生の現場では「債権カット」といい、
債権カットを伴う金融支援手法を「カットスキーム」と言います。
また、中小企業活性化協議会(旧:再生支援協議会)において「債権カット」を伴う支援は、
「抜本スキーム」と言ったりします。
ちなみに、再生の現場では、「抜本的に」という言葉は、債権カットを意味するので、
慎重に使っています(笑)。
「債権放棄」には、民事再生などの法的なスキーム、
中小企業活性化協議会や金融再生ADRなど、公的な支援機関を活用した私的スキームなど、
いくつかやり方があるのですが、
要するに、金融機関が債権放棄に応じるか、否か、という能動的な判断を伴うことなのです。
企業が破産の結果、債権が回収不能となってしまったこと、とはわけが違います。
いわば、金融機関が自ら、ロス確定の意思決定する行為なのです。
倒産と回収不能
企業の倒産。私もこれまでの銀行員人生において、数々目のあたりにしてきました。
一番ショックなのは、突然の「張り紙」、「弁護士受任」など、
全く想定していない先、時期に、現実となることです。
担保さえカバーされていれば、そうは言ってもひとまず安心ですが、
非担保額が大きい場合、それが結果的には回収不能額=ロスとなってしまいます。
事態発生した場合、とにかく預金口座の支払い停止(金融機関として預金は反対債権)が
常套手段ですが、そんな事態で預金残高などあろうはずがありません。
企業側も弁護士と図って、事前に預金を他口座に移していることがほとんどです。
「やられた。」
数日前に、大口の預金が他金融機関に振り込まれている、ことも多々あります。
これはちなみに、なのですが、
仮に業績悪化企業が倒産により、回収不能となってしまった場合に、
しかるべき保全措置を講じていなかった場合、
営業店の支店長や担当行員(本部職員も含む)は人事処分の対象となります。
例えば、数か月前に本部から、
「担保未徴求部分があるので、交渉し、担保設定すること。」
という指示を受けていたとします。
しかし、それを営業店がまだ大丈夫など甘く見て、後回しなどにしていた間に、
企業がこのような事態になると、間違いなく支店長は処分されます。
仮に、担保交渉していたが、徴求に難航していた場合と、
そもそも交渉すらしていない場合とでは、処分の重さが異なります(当然)。
また、弁護士受任の数日前に、その社長が営業店の窓口で、多額の現金を出金していた。
普通預金口座ならば差し止めはできないでしょうが、
これが定期預金の中途解約となると、処分の対象となる可能性があります。
このように、回収不能、貸倒損失の発生は、
公の預金を原資としている金融機関、特に地方銀行にとって、あってはならない。
まして融資マンとして、回収不能を発生させることは、痛恨の事態なのです。
その貸倒損失を能動的な意思決定で行うこと、これが「債権放棄」という行為です。
私的か法的かで違う
「債権放棄」は金融機関の意思決定事項なのですが、
その種類には、大きく分けると「法的」か「私的」かの2種類に分けられます。
まず法的の場合、民事再生による手続きが広く知られております。
この場合、債権カット率は97%~99%くらいでしょうか。
担保以外はほとんどカットとなってしまいます。
このように、非担保部分はほとんど回収不能となる民事再生ですが、
金融機関はどう考えるかといいますと、
「まあ、法的だからやむ得ない(いいすぎかもしれませんが)」、
「もはや裁判所の管轄であり、我々にはどうすることもできない」
「民事再生計画を否としたら、破産となり回収は0%となる」
「ならば同意して、1%でも回収したほうがいいじゃん」
と、経済合理性を優先して判断するケースが多いです。
いわゆる、「粛々とすすめる」ということになります。
これが、私的手続きとなると、金融機関ごとの考え方は、マチマチのようなのです。
何度も言いますが、「債権放棄」は金融機関が、貸倒損失を確定させる、という
能動的判断行為ですので、判断となる「なんらかの基準」がなければなりません。
しかし実際のところ、現時点においても「明確な基準」というものが存在せず、
(ある金融機関もあるかもしれないですが)、
金融機関ごと、有識者による属人的な判断となっているように見受けられます。
私的スキームによる債権カットは、
「直接放棄」「第二会社方式」「サービサー売却」など、いくつかパターンはあるのですが、
要するに、法的にはまだ事業存続している企業の融資金の回収を一部断念する、
という苦渋の判断を下すことなので、上記のとおり、明確な判断基準がない中において、
損失確定という痛恨な意思決定をしなければならない、ということのハードルが高いのです。
これが小さな金融機関ですと、おそらく債権放棄を伴う意思決定は、
「役員決議事項」となっていることも多く(当行もですが)、
役員さんの中には、
今でなくとも、もう少し様子を見てからでも・・・
どうしてこんなことになったのだ、誰が融資対応したのか?
願わくば避けて通りたい
この企業を債権カットしたら、株主総会で質問が来るかも
あの企業ばかりなぜカットするのか?とお客さんやマスコミに質問されたらどうしよう、
などなど考えるものです。
逆に、悪い言い方をすれば、
「つぶれてしまった」ならば判断する必要なし。なのです。
役員さんが債権放棄に対して、慎重な考え方をしている場合、
「うちは法的はやむ得ないけど、私的ではムリ」と、
そこの行員が露骨に内情を話す金融機関もあるのです。
このあたりが「債権カットを伴う抜本的な事業再生」がなかなか進まない、という
根底となっているもののひとつ、なのではないでしょうか。
私は金融機関の批判をしているというのではなく、
このような話から、「金融機関が事業再生に積極的でない」、と言われることがありますが、
「債権放棄」という判断は、金融機関側からすると、
簡単な判断ではない、無責任な判断はできない、ということだと思います。
だって、融資したお金を返さなくていい、ですよ。
道徳的に考えたっておかしい。
私たち銀行員は新人時代、融資業務に携わるにあたり、
「融資業務の成果は、実行ではなくではなく、全額回収して、はじめて成果である」
と教えられてきました。それは古い考えという訳ではなく、
普遍的にそうなのです。そうだと信じています。
それを曲げて行う判断、だから苦渋の決断なのです。
真面目に理性のある金融機関職員ならば、なおさら、苦痛ということなのです。
そうはいっても、金融機関が債権カットに応じる理由、ロジックとしては、
私は、定量的には経済合理性、貸倒引当金の計上。
定性的には、大義名分、というものがあるのだと思っています。
どっちかというと、定性部分のほうが、重要なのかも。
このあたりは次回に述べていきたいと思います。
コメント