こんにちは
私は現役の某地方銀行管理職の#ひろとし課長#です。
長年、事業再生セクションに従事していた経験を、このようにブログとして紹介しています。
今回もテーマは「債権放棄」についてです。
前回の続編、「地方銀行が債権放棄を決断するとき」、を述べていきたいと思います。
銀行が債権放棄に応じるには
前回、債権放棄とは「借金の棒引き」「チャラ」にすること、と述べました。
倒産などにより、結果的に貸出金を回収できくなってしまったことと、
銀行が能動的に「返さなく良い」とすることでは、意味合いが違います。
債権放棄は後者にあたるのですが、
それでは銀行が債権放棄に応じるのは、どんな理由があるのでしょうか?
思いつくままいくつかまとめてみます。
- 経済合理性(債権放棄>破産)
- 管理コスト
- レピュテーションリスク、株価
まず、1の経済合理性ですが、このロジックで語れないかぎり、
金融機関が「債権放棄」することはないでしょう。
ここでいう経済合理性とは、
債権放棄したほうが、倒産したのちの清算配当で回収するよりも、
融資金の回収額が大きいということ、です。
ただし、これが成立するためには、
債権放棄したのち、企業が正常先並みの再生を果たす、
ということが条件となります。
債権放棄は、無担保部分(担保でカバーされていない部分)を行います。
通常、無担保部分を全額放棄することなどはあり得ないため、
放棄しなかった残りの分は、企業が返済していく、ことで回収を進める訳です。
つまり、その企業が再生しない限り、回収できないこととなります。
いくら企業側が、債務免除を求めたとしても、
金融機関側が、その企業の再生可能性を認めない限りは、債権放棄に応じるはずがありません。
債権放棄後、その企業が倒産した、となっては金融機関の目利きが問われます。
「債権放棄>破産」をという経済合理性を語るためには、
「債権放棄により、負債を減らすことで、企業は再生できる」、
というロジックを証明できないと、ダメなわけです。
2.の管理コストですが、再生企業の継続支援をすることは、
追加の融資対応をしないとしても、金融機関にとってそこそこパワーがかかります。
条件変更の稟議決裁や大口問題債権の報告、監査法人や、日銀、金融庁への報告など、
引当コストもさることながら、人件費コストもかかるわけなのです。
その企業が通常再生はあり得ない(無担保部分が全額回収できない)、
と判断した場合、これ以上のランニングコストを生じさせないためにも、
ここで損失を確定して、サービサーへ債権を譲渡するという選択肢もあります。
3.のレピュテーションですが、「A社が倒産すると、B銀行もやばいのでは?」
地方ではこんな話がよくありました(最近はあまりないのですが)。
通常は、金融機関は引当金をしっかり計上しているので、
こういう噂があっても経営的には影響は少ないのでしょうが、
噂による株価の影響、金融機関の役員はこういうものを嫌がるものです。
ですので、損失を確定して、「どうだ、影響はないぞ」、というところを見せたいのです。
もっとも、私的整理で債権放棄する場合には、極秘で行うため、新聞報道はないのですが、
結局、帝国データバンクなどの興信所調査によって、
噂も広がるし、放棄した事実も露見してしまいます。
地方銀行が債権放棄を決断するとき
上記が債権放棄するメリット?の一般的な考えですが、
金融機関といえども民間企業、経済合理性という定量的なロジックで判断することが原則です。
しかし、銀行という公を担っていること、
特に地方銀行の場合は特に、
経済合理性だけでは判断できない(しない)ことが多々あります。
損するとわかっていても(ちょっと問題発言ですが)、地域の顔色を見ながらやることがあります。
前回のブログで、地方銀行が債権放棄するに際し、重要視すること、
定量面における「経済合理性」・「引当金の計上」と、定性面の「大義名分」
特に大義名分を重要視していると述べました。
定量面の経済合理性の考え方については、前記のとおりですが、
引当金の計上について、少し解説しましょう。
金融機関は、債務者を一定のランクに分けて引当金を計上しています。
このランクは債務者区分といいまして、5つの区分としています。
1.正常先 2.要注意先(要管理先) 3.破綻懸念先 4.実質破綻先 5.破綻先
1.の正常先は引当金の計上が軽く、3.の破綻懸念先以下のランクが問題となります。
引当率についは、実際は金融機関ごとにマチマチなのですが、
3.の破綻懸念先以下は、通常非保全部分は全額もしくは相当多額に引当金を計上します。
金融機関も自社の決算に直結するので、債務者区分の引き下げは安易に行うことはできません。
債権放棄を行う場合、その企業は通常、「実質破綻先」に区分されるので、
引当金を大幅に積み増す(積み増している)こととなります。
債権放棄に応じる場合、この引当金が積んであるかどうか、
ということが重要なポイントになります。
仮に「要注意先」の企業に対して、債権放棄を検討するとなると、
通常は引当不足が考えられるため、金融機関の決算に影響を与えてしまいます。
金融機関も決算は赤字にはしたくないので、自身の足元の業績予想が不安の場合、
簡単には債権放棄には応じることはできません。
一方、債務者区分が「破綻懸念先」以下の企業については、
すでに引当金として計上しているため、仮に倒産して回収不能となった場合でも、
引当金を特別損失に振り返るだけ、金融機関の決算には影響がない、と言えるのです。
このため「破綻懸念先」以下の企業への、債権放棄を検討する場合については、
決算数値の影響を懸念するという抵抗は、ないと言えます。
大義名分
それでは、こっちのほうが重要とした定性面の部分、
「大義名分」について、私の持論を述べたいと思います。
定量面での経済合理性を確保しているといえども、
債権放棄を行う企業など、本当にごくわずかなはずです。
地方であるならば、なおさらです。
「なぜ、A社は破産して、B社だけ救うのか?」
必ずこういう話になります。
「A社を救うなら、うちも救ってほしい」
「銀行は債権放棄して当然」
こういう「モラルハザード」的な話、噂、ねたみなどが湧いてきます(特に地方においては顕著)。
こういう事態を想定すると、
B社だけは債権放棄してまでして支援する合理的な理由、
いわゆる「大義名分」を考える必要があります。
「B社は当県内において〇〇〇で、地域経済になくてはならない存在です。」
「B社は〇〇業界の老舗で、これまで日本国内の〇〇業界の発展に寄与してきました。」
「たしかに」、「B社は仕方ないよな」、と言えるような、合理的な理由。
場合によっては、それって「屁理屈では?」とでもとれるようなこともあります。
首都圏などでは、私的整理のカットスキームは、頻繁にある事例なのでしょうが、
地方においては、いまだにレアケース。
債権放棄するには、大義名分を考えながら進めないと、
役員さん方たちは、どこに行っても、
「〇〇銀行さんは、B社だけ借金をチャラにして」、
なんて、言われること間違いなしなのです。
しかも今では、社外取締役によるガバナンスも重視されていますので、
毎月の役員会においても、そのような発言が飛び出しかねないのです。
こうしたいわゆる「刺されるリスク」を回避させるために、
債権放棄を検討する場合には、
B社には債権放棄してまで支援する価値があるのだ、という大義名分を真剣に考えるのです。
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