こんにちは、#ひろとし課長#です。
これまで事業再生をテーマにブログを書いてきましたが、
その中の、私が体験した実話を紹介していきたいと思います。
結構、リアルな内容なので、ちょっと心配なのですが・・・・
食品加工会社のS社の例
食品加工会社のS社です。
この会社はといいますと、最近PLはわずからながらも黒字なのですが、在庫過多の状態でありました。
現代取は2代目で、話が不得手?で、借入をする際にも、
その理由について、メインバンクである当行に説明することができませんでした。
もとより田舎のそこそこの家柄だったこともあり、当行としてもS社になにかあっても、
先代の資産もあるので、回収には懸念ないな、というような付き合いであったようです。
いちおう私の事業再生セクションでの管理先だった(私は担当ではなかった)のですが、
当時の当社については、保証協会付きの融資先程度の認識でした。
そんなある時、S社社長が全く知らないコンサルタントを連れて、営業店を訪ねてきました。
そのコンサルが言うには、
計画を作るから「リスケ」をしてほしい、というのです。
当時、私はS社の直接の担当ではなかったため、
そんなことがある程度に聞いていたのですが、
なにか「もめ事」が起きそうな気配を感じました。
そのコンサル社は、たびたび営業店を訪れ、計画についていろいろな意見を述べていたそうです。
しかし、当時の営業店担当、ならびにその支店長も、
いちおう話は聞くのですが、具体的な指示項目もないにもかかわらず、
担当者も支店長も、ああだこうだと、話が一向に進みません。
いろいろとツッコミを入れてるものの、なかなか応諾しなかったようです。
(というか、田舎の店ゆえに理解できなっかったのでしょう)、
それを何度か繰り返した結果、ついに、S社社長がキレまして、
なんと金融庁にタレコミしたのです。
銀行がリスケをしてくれない
〇〇銀行がリスケに応じてくれない
そのころ本部において、転勤等による担当替えがありまして、
なんと私がS社を担当することになっていたのです。
その矢先にこのような出来事。
さっそくもって私と当時の課長が、金融庁さん(地方の財務事務所ですが)に呼び出されました。
S社の社長からタレコミがあったのですが・・・・
財務事務所の担当さんから、S社と営業店でのやり取りについて事情聴取を受けまして、
営業店から事情を聴いたところ、提出いただいている資料に不備や理解不能な点がありまして、それをお願いしているところで、時間が経過してしまったようです。
ひととおり説明した結果、財務事務所さんは、
S社の話をよく聞いてやってください。
なんらお咎め等がある訳ではなく、よく話を聞いてやってね、という程度ですみました。
そこで、私は営業店を訪問し、直接S社社長ならび、そのコンサルと話を聞くこととなりました。
私が初めて面談した際には、コンサル側の主張する、「営業店に対する不平不満」をまず聞きました。
「銀行は、こっちがああいえば、こういうの繰り返し」
「まともに取り上げる気があるのか?」
私は一通り話を聞いた後、反撃に出ました。
銀行側はS社の在庫について不信を抱いている。
ここに対する詳細のDDがあるのか?
計画では大幅増収増益となるが、いったい根拠はなんなのか?
私もコンサルから提出されている計画の修正すべき点、確認すべき点すべて指摘しました。
今後はすべて私が全面で話を聞くので、すべて確認して修正するように。
とまあ、コンサルに対してはビシッと言ったのですが、
さすがに首都圏のコンサルでもあり、最初は当方を警戒していたのですが、
ようやく話ができる人と会えたという感じで、
その後はとても協力的でした。
さて、S社の社長はその場に同席していたのですが、
社長からは、一言も発言はありませんでした。
また金融庁にタレこんだ件も、一言も。
私もこの社長は、話ができない人なんだ、という「噂」を信じました。
在庫過多の理由とは?
その後、私は社長に問題となっている在庫を見せてもらうようお願いしました。
在庫は倉庫会社数社に分散して保管されていたので、
その当日、社長は当社の車を用意して各地を案内してくれました。
そして驚くことに、あの話をしない社長が、別人のように流暢に説明してくれます。
私は社長の案内で、在庫を確認しました。
そしてなぜ在庫過多になっているのか、現状の在庫の状態、中身、陳腐化の有無、
今後どうやって売りきるのか、
それらに対し、社長は的確に答えるではありませんか。
そしてお昼をともにして、社長から言われてハッとしたことがありました。
「銀行さんに在庫を見せてくれって言われたの初めてだ。」
そして社長の話でわかったのです。
在庫過多の理由、黒字なのに資金繰りが厳しい理由。
確かに在庫が長期化していたのですが、架空や粉飾ではなく、
実は、大手企業の依頼を受けて生産したものが、ドタキャンされたとのこと。
中小・零細でよくあることです。
その在庫負担の資金が厳しかったということ
在庫資金を長期借入金で調達するから約定返済負担が重くなり、
資金繰りが厳しくなるのは当然です。
これってまるで金融排除ではないか
社長が理由をうまく説明できない。
しかしも営業店の行員も理解しようとしない(勉強不足もあり理解できない)。
わからないから銀行は保証協会付き融資のみしか対応しない。
そして、保証協会の保証枠がいっぱいとなったら、融資は謝絶する。
社長は当行が融資してくれないから、他行に融資をお願いする。
そして他行も融資対応できなくなって、ついにリスケ要請する事態になったのです。
この規模の企業で、なんでこんなに金融機関取引が多いのだろうかと思っていましたが、
これで、ようやくわかりました。
この時、メガバンクから信用組合まで含めて複数の金融機関取引があったのです。
まあ、ノンバンクがなくてよかったのですが。
その後、当行が主導し計画を修正。
バンクミーティングを開催し、全行リスケ対応することができました。
S社のその後ですが、もとより環境が追い風の業種であったこともあり、
その後も黒字を継続。
問題の在庫も引き取り先が現れ、業績はまさにV字回復しました。
リスケしていた債権も正常化するどころか、
複数あった金融機関をまとめるべく、当行がいくつかの金融機関の肩代わりまで行いました。
この事例は再生から推進へという、まるで美談のような結末なのですが、
そんな話ではなくて、あの時社長が金融庁にタレこみを行わなかったら、
事態がどのようになっていたでしょうか。
あのタレコミがあって、当行も本腰をいれた、といっても過言ではありません。
そう考えると、うちは相当に反省しなければなりません。
S社は地域にとって、その業界にとって、欠かすことのできない企業であり、
それを理解できていなかったのは、われわれ金融機関でした。
現場の営業店も、確かに社長の説明が下手とか、いろいろな理由はあるにせよ、
「目利き力」がなかった、ということかもしれません。
「日本型金融排除」という言葉があります。
これは、
日本型金融排除
「十分な担保・保証のある企業」や「高い信用力のある先」以外に対する金融機関の取組みが十分でないために、企業価値の向上が実現できず、金融機関自身もビジネスチャンスを逃している状況
金融庁HP
という意味ですが、
まあ、うちにかぎってこんなことはないよな。
と思っていましたが、身近にまさにそのような事象があったのです。
あやうく、地域にとって、大事な企業を失ってしまうところでした。
財務内容が多少悪い、「要注意先」であっても、
その地域、その業界には欠かせない企業、
そんな地元中小企業を適切に評価することが使命である、
地域金融機関の行員の目利き力がないばかりに、支援がうけられず、
再生、成長軌道に乗ることのできない企業がでてきてしまうこと、
そんなことは絶対に避けなけばいけない。そんなことを痛感した事例でした。
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