こんにちは#ひろとし課長#です。
再生支援の現場にいると、粉飾の事実が明らかになることは
よくあることです。
その場合、外部専門家によるDD(ディューデリジェンス)の結果や、
銀行による調査の結果などいろいろありますが、
今回は、再生支援企業が、外部専門家によるDDの結果、粉飾が発覚したY社の例を紹介します。
Y社の事例
製造業であるY社は、大手企業であるF社の協力工場で、かつて業況はすこぶる堅調で、
当行にとっても優良企業という位置づけでした。
Y社の工場は数年前に建て替えを行い、工場建屋は従前と比べると、各段と広くなりました。
工場建て替えの理由ですが、F社からの受注増に伴うものということもあったのですが、
たまたま県道の拡幅に伴い、工場の一部が道にかかったことから、
いっそのこと、ということで建て替えを行ったそうです。
Y社工場は、外観は大手の主力先企業と同一カラーで、いかにも素晴らしい様相でした。
当行の営業店支店長も、その当時は推進先として、足しげく通っていたようです。
しかし、工場建て替え以降、売上は急激に落ち込み、赤字転落まで業績が悪化しました。
それでも、もともと優良企業の位置づけであったため、
赤字資金の対応により資金繰りは維持していました。
しかし、営業店も当社の急激な売上悪化要因がわからず、事業再生セクションである、
本部所管とし、私が担当することとなりました。
なんか不思議な感じの会社です
営業店の担当と支店長に連れられて、Y社を初めて訪問しました。
たしかに噂通り、主力企業カラー一色の工場です。
もともと優良企業だったんだ、という感じの工場です。
応接室で、社長、経理部長、工場長と面談しました。
・・・・・・・??
なんか、不思議な静かな感じです。
というか、こちらが質問しても、返事に困っているのか、
回答が返ってこないのです。
とにかく、沈黙していても仕方がないので、
私が来た理由、当行のスタンス
御社の支援のため協力しますよ。
いわゆる目線合わせを行うべく、ひたすら説明?話しかけてみるのですが、
はい、はあ、お願いします。
という感じで、ひたすら徒労感が漂いました。
その後、工場長に工場内部を拝見させていただいたのですが、
広くて新しい工場、作業者もこの広い工場をゆったりと?使っていました。
というか、このスペース無駄だろ?
たとえ再生企業といえども、教育のしっかりした企業は、外訪者には挨拶をするのですが
(この挨拶するかしないか、工場の雰囲気、再生可能性のある企業かどうか、
という目で見ているのですが)、
作業員はこちらをちらっと見るだけで、挨拶もありません。
そして在庫を見せてもらったのですが、
広いスペースにもかかわらず、雑然としているといた印象でした。
なんか調子が狂うな?
という違和感を感じながら、その日は工場を退出しました。
そもそもこの会社大丈夫かな?
とは思いながらも、窮境要因を探るため、
工場診断等に強い、外部専門家を派遣することとしました。
製造業だし、技術的プライドが高かったり、普通は外部専門家の提案など、
否定的な態度を示すかと思いきや、ああそうですか。お願いします。
なんか、へんな会社だね。
粉飾発覚
Y社は、金融機関は当行とメガバンクのみしか取引がなかったため、
間口の金融機関を増やすべく、当行が政府系金融機関を紹介しました。
当行がメインとして再生計画の策定と、その実行支援をしていきますので、
よろしくお願いします。
ということを政府系さんにお願いし、Y社の経理部長には、政府系金融機関を訪問するように、
と話しをしていたのですが、Y社の方から政府系金融機関をなかなか訪問しなかったのです。
おかしいな?
さすがに資金繰りもタイトになり始めているはずなのに?
当行からY社に催促し、ようやく政府系金融機関を訪問しました。
その後も、政府系金融機関から、
#ひろとし課長#、Y社にいくら言っても、書類が出てきませんので、困っているのですが?
私も紹介した手前、Y社に対してイライラしていたのですが、
どうしてY社は自社が困っているはずなのに、ここまで他人事なのか?
そしてしばらくして、私の部下が血相を変えて、私に報告するのです。
#ひろとし課長#、大変です、粉飾が発覚しました。
粉飾の発覚、再生の現場ではホントよくあることです。
今回も、外部専門家のDDによって、帳簿と決算書が大きく乖離している、というのです。
外部専門家はY社に言う前に、まず銀行さんに、ということのようです。
この外部専門家は、クライアントはあくまでY社なのですが、
当行が紹介した専門家なので、まず金融機関に説明を、ということなのでしょう。
Y社は当行が粉飾の事実をつかんだことすら知らないのですが。
問題は何を目的に粉飾をしていたのか?誰の指示でそんなことをしたのか?でしょう。
まず、外部専門家からY社の経理に、粉飾の事実を確認させたところ、
簡単に粉飾した事実を認めたそうです。
たしかにやりました。
なんか拍子抜けする会社だな?
通常ならばシラを切るなど抵抗するはずなのだが、簡単に認めるとは。
そこで私は、事実確認のために、社長と経理担当部長を呼び出しました。
銀行取引約定書
営業店の応接に社長と経理担当部長を呼び出して、事実を確認しました。
コンサルから在庫の数字がおかしいといっているが、間違いはないか?
間違いありません。
なぜ、そんなことをしたのか?
在庫管理が煩雑で、材料も製品も毎日の動きが煩雑で、正確につかめていませんでした。
????
とりあえず、わかるところで、在庫数字を拾ってみたのですが、
このままだと大赤字になってしまうと税理士に言われました。
それはおかしいと思って、だいたいこれくらいはあるはずだと思い、数字を盛りました。
????
話はこういうことです。
確かにY社は主力先からの受注が増加したのです。
それによって生産が間に合わない、というか管理不能状態となっていました。
生産が間に合わないから、外注に出す。
採算も数量の管理もできないまま、ただ生産をこなすために外注に出す。
しかし、工場ではなんとか作ることだけやって、誰も管理のできる人がいなかった。
決算時点での在庫の正確な数字はだれもできておらず、
決算処理を税理士にお願いしたところ、大幅な赤字になってしまうということから、
これは在庫管理ができていなかったせい、として
いつもこれくらいの水準の在庫があるので、この時もこれくらいあったでしょう
というノリで、在庫の数字をもってしまったというのです。
実際には、正確な在庫数字はわからないにしろ、その時はすでに赤字だったはず。
この在庫をもった数字の決算書に、当行は追加の融資対応をしていたのです。
普通は、在庫粉飾すれば、BS上の数値に異常値が発見できるはずですが、
Y社の売上は大幅に増加していたので、当時はなにもわかわないままだったようです。
(今冷静に見ても、わからないかなあ)
この事実は社長が知っていたのか?
・・・・知っていました。
ここに御社が当行に提出した、銀行取引約定書があります。
この第〇〇条に、このように記載があります。
銀行取引約定書第〇〇条 期限の利益喪失
甲について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙からの請求によって、甲は乙に対する一切の債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済するものとする。
甲が乙との取引約定に違反したとき、または乙へ提出する財務状況を示す書類に重大な虚偽の内容がある等の事由が生じたとき。
銀行取引約定書
甲とはY社のこと、乙とは当行のこと。
期限の利益喪失
「キシツ」、とか
「シッキ」、とか言ったりします。
要するに、3年後に返済してください、という期限の契約(期限の利益)に対し、
いやいや、粉飾したので今すぐ返せ(喪失)、という意味です。
銀行は粉飾決算であることを知らずに融資対応を行った。
いわば騙されたようなもの。
当行は、銀行取引約定書に基づき、いますぐ全額返済を請求することができる。
・・・・・・
はあ・・・
社長が無言、
経理担当部長は天を仰ぎました。
ホントに天を仰いだのです。
Y社社長、経理部長は、言い訳も、今後の打開策も述べることなく、
ひたすら、すみません、の一点張りでした。
私はもとより、いますぐに期限の利益喪失をさせるつもりなどなく、
社長の猛省と、今後の再生への覚悟を引き出したかったのですが、
社長は「すみません」とはいうものの、それ以上の言葉はありませんでした。
Y社のその後
Y社は主力先F社の協力工場としてのみ機能している会社でした。
かつての工場で、かつての受注量で平穏に回していれさえすれば、
いまも優良企業だったかもしれません。
F社の増産により、Y社のキャパシティを超える受注が発生、
さばききれなかった受注を外注に丸投げし、資材仕入れも大幅増加。
数字の管理もできず、機能不全状態に陥りました。
たまたま道路拡幅にあたって、これを機に工場拡張したのですが、
もとより労働集約型のモデルであり、生産能力が上がるどころか、
かえって無駄なスペース、人の分散を生み、効率を下げ、
借入と固定費だけが増加してしまったのです。
社長も2代目で、経営能力のある方ではなく、F社の言われた通りに動いていれば、
ホントにただそれだけしていれば、優良企業の社長だったのです。
しかし不思議なのは、当行が外部専門家をいれてDDをやるといったとき、
通常粉飾企業ならば、抵抗するはずです。
しかし、社長は何ら抵抗なくDDを受け入れ、
また当行が工場見学するときも、
在庫を見せることに対して何ら警戒もしなかったのです。
そんなこともわからない社長だったのでしょう。
Y社のその後ですが、当行と外部専門家が協力して計画を作りました。
協調融資をお願いしていた政府系金融機関には、私の方から、Y社が粉飾していた事実を伝え、
融資申し込みを取り下げさせました。
計画の完成に至るまでにも、
資金繰りがあっていなくて資金ショート寸前になったり、
外部専門家から指導をうけていることをやらなかったり、
私からさんざん叱責をうけることたびたび。
それでも、工場のなかには、かねてから社長に不満を持っていたものもおり、
それらの人たちの努力と、当行の資金繰り管理指導、
F社からの受注が戻ってきたおかげもあり、いまもなんとか資金繰りをつないでいるのです。
この事例からの教訓は、
・・・・なかなか難しいですね。
身の丈を知る、ということだったでしょうか。
経営者の能力以上、工場の生産力以上、会社の実力以上、
の負荷がかかった場合、もろくも企業は崩壊します。
外から見れば、F社の協力工場、F社カラーの建屋、みなピカピカに見えます。
だけど、工場で働いている人達の雰囲気、代取や経理部長との会話の中から、
決算書だけではわからない企業の実力を察することはできたはず、
企業の実態を把握するには、五感を研ぎ澄ませて、現場で感じる、これ以外ないのでしょうか。
ホントに、やってもやっても、歯ごたえというか、手ごたえというか、
最後まで、スッキリ、ハッキリとしない企業でした。
この企業がいつか再生すれば、このモヤモヤは晴れるのでしょうか?
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