こんにちは、#ひろとし課長#です。
今回の事例は、担保として正式に徴求していない定期預金の取り扱いについて、論じたいと思います。
銀行員も正式に理解していない?解釈がそれぞれある?
実は、ただただ、なんとなく御上を恐れていている?
営業店の現場で判断に迷うような、定期預金と借入金についての事例を紹介します。
担保だったら、だれもなにも、悩むことはありません。
今回は、担保としていない定期預金をどうするかについて、話を進めていきます。
K社の事例
K社は全国的に店舗を有しているサービス業です。
当行はメイン行ではありません。
営業店が推進して、借りていただいた先でした。
私のブログで紹介するのは、基本的にはメイン行である事例が多いです。
当たり前ですけど、事業再生が主テーマですから。
再生はメイン行の仕事だからです(当行が下位行の場合、協力したりはしますけど)。
しかし、今回のK社については、当行など下位行中の、下位行です。
まあ、全国展開してる企業ですから、当行のような田舎地方金融機関たちが、
よってたかって推進しました、みたいな感じの取引先でした。
そんなK社が、業績悪化を理由として、再生支援協議会(現:活性化協議会)が関与し、
再生計画を策定する、というので、
通常の審査ラインから、事業再生ステージ所管の、私のところに回されてきたわけです。
私はそういう先については、
回収してやる という、
ある意味で本来の?金融機関目線に徹することにしているのですが、
今回の事例においては、それでもいくつかドラマがありました。
見合い預金というもの
「見合い預金」
この言葉がネット上の皆さんに通じるかどうかわかりません。
あまり声高々に、これは見合い預金です
と言うのも、御法度なのかどうかも微妙なのですが、
銀行が新規で融資取引を開始する、
それと同時に、預金、特に定期預金を推進していく。
これって、昔ながらの金融機関の推進としては、オーソドックスなやり方でした。
預金取引もお願いします。
こういう営業がかつては当たり前だったです。
いまのこの低金利、というか預金金利など0%の時代に、
銀行が定期預金(積み立て含む)などをお願いする理由とは?
基本的に、保全面と取引採算面、二つの理由が考えられます。
まず採算面の考え方ですが、
こんな古いような考えは、今はしないかもしれませんが、
銀行融資の原資は、お客さんからの預金や市場から調達しています。
調達するにはそれなりの金利とコストがかるのです。
しかしその調達先が、融資先の預金であれば、
自分の資金を銀行に金利を支払って使う、という取引になります。
こうすれば、銀行でも多少低レートでも採算はあう、
という考え方です(かなり説明を省略ましたが、これは実質金利という考え方です)。
そしてもうひとつ、保全面についてですが、こっちが重要です。
担保ではないにせよ、融資先に定期預金を作成させることは、
銀行は反対債権を有することとなります(銀行が企業の資産を預かる)。
仮に相殺適状となった場合には、その定期は相殺により回収することができます。
これは正式に担保ではないにせよ、担保と同じ効力を持つのです。
また、企業がその定期預金を中途で解約するときは、
その企業の資金繰りが、なんらか悪化しているというシグナル発信となるため、
業績悪化を未然に見抜く、ことができます。
実際は、その企業が、解約しに来きてから気づいても遅いのですが・・・
銀行が新規で融資取引を始める場合、
後発行(あとから取引する先)は、その企業に対する担保やメイン口座を得ることはできません。
メイン行と異なり、企業情報が入手しにくい、遅いというデメリットがあります。
それを定期預金を置くことでカバーしておく、というものなのです。
これが、融資実行した金額、またはその一部がズバリ定期預金となると、
これは歩積両建預金※として、コンプラ上アウトとなりますが、
他行から預け替えをしてもらう、積立をお願いするということであれば、
これには問題は生じません。
ただし、銀行が取引上の優位的な立場を利用して、定期預金を強制したり、
正当な理由がないにもかかわわず解約に応じない、これは当然アウトとなります。
歩積両建とは
歩積両建預金とは、顧客に融資を行い、その預金を定期預金として預金させることです。融資とは、本来顧客がお金を使う必要があるため行われるものですが、顧客に必要以上の融資を行い、余った金額を銀行に預金させるのです。例えば、顧客が1,000万円を必要としている場合に「2,000万円を融資するので、1,000万円は預金してくれ」というものです。
ネット紹介
相殺適状
前置きが長くなりましたが、K社の事例に戻ります。
K社の窮境要因は、前代表者が、個人の私腹を肥やすような放漫経営がたたったこと、
これが一番の要因でした。
現在は、前経営者は代表権は有しているものの、社長職は従業員であった人物(親族外)に譲り、
譲り受けた社長は、真面目に経営改善に取り組む意思を示していたようでした。
そんな中、支援協のDDが進んでいく中で、K社に粉飾の事実が明らかになりました。
その粉飾のやり方ですが、売上の架空計上やら、費用の未計上やら、かなりの悪質です。
当行とすると、当社のBS上の財務バランスから、公式通りに運転資金を算出し、
融資対応しているというお粗末な話で、完全に粉飾に引っかかってしまった、という結果でした。
この事実を確認した私は、
この粉飾はひどいものだ。
当行は支援打ち切りにして回収を進めるべきだ。
と、主張したものの、当然担保もなく、回収の術がなかったのですが、
K社には、当行に積立定期預金として数百万円掛けこみ残がありました。
再生支援協議会からは、
担保としていない定期預金は解約して、資金繰りにあてさせてもらいたい、
という要請(決して強制ではない)がありました。
当行は、K社への融資金について、延長を認めていなかったため、期限延滞の状態にありました。
K社に対する「期限の利益」はすでになく、この定期預金は相殺適状にあります。
当行は現時点において、支援協計画に同意できないかもしれない。
粉飾のやり方がひどくて、当行は騙されたと思っている。
定期預金は相殺適状にあり、当行の方針が決定するまで、開放することはできない。
このようにきっぱりと支援協には定期預金の解放は拒絶しました。
預金拘束が適法と評価される場合
少なくとも期限の利益の当然喪失事由が発生するなどして、すでに相殺適状が生じている場合については、あとは相殺の意思表示を残すのみであって当該預金は回収に充てられてもやむを得ない状態になっており、預金者たる債務者にとって保護すべき利益は乏しいし、直ちに相殺することなく預金を拘束したうえで弁済に向けた交渉を行うことは債務者にとってメリットがあるといえるので、預金拘束は適法であると解するのが通説である。
金融機関の法務対策6000講
担保に徴求していない定期預金でも、期限の利益喪失状態にあるような債務者の場合、
堂々と拘束を主張することができます。
K社面談
当然に支援協から再考するようにと何度もお願いがありましたが、
粉飾のやり方にも問題があったため、当行が再生支援に応じることもどうかと思い、
私は、支援協計画スキームから降りて、定期預金を相殺し、残りはサービサー売却などによって、
K社との取引解消を検討していました。
しかし、当行の上層部の意見として、
再生の可能性を見極めたうえで判断しないとダメ、
と部長にもっともなことを言われてしまい、
私は、しぶしぶと、K社を訪問し、社長と前社長と面談したのです。
印象はといいますと、前社長は会社から巨額な資金を使っていた、
という割には・・・
ホントに職人さん、地味なじいさんという感じでした。
前社長は反省の弁を述べたのち、ほぼ無言でした。
社長はというと、現場の店長あがりの人物。
お店を複数店舗まかされたのち、前社長から数年前に社長に抜擢されたという人物でした。
今回の粉飾は誰が仕組んだかと問いただすと、K社の前の顧問税理士だという、
前社長は職人で、数字には明るくなく、この税理士にすべてを任せていました、というのです。
この税理士はすでに解任されているので、真相はよくわかりません。
社長は、数年前にこの粉飾の事実を聞かされたということを話しました。
結局、この日の面談は、2人からの反省の弁と、再生に向かって努力しますという決意、
そして再生に向けた具体的な改善策をひととおり聞いて、帰ってきました。
このとき、私がなにを考えていたかといいますと、
現社長は誠実である、考え方もしっかりしている、
サラリーマン社長にもかかわらず、覚悟ができている。
しかし、あまりにも財務が棄損しすぎているし、再生の可能性はとても厳しい。
しかも支援協計画の条件は・・・・
3年間返済なし(3年ゼロリスケ)かつ定期預金の解放。
この計画を容認することは、K社に期限の利益を与え、
これしかないという相殺適状の定期預金を解放し、
ただひたすら3年間、K社の業況回復を祈る、というものなのです。
これは当行として応じられないよね・・・・
メイン行の支店長登場
支援協に対して、当行として計画には応じることはできない。
という報告をした際に、この粉飾の事実に対し、
いったいメインの金融機関はどう考えているのか?
このメイン行さんは、追加の資金繰り支援(コロナ前の話)に応じているのです。
なぜ粉飾企業に対し、メイン行が支援をするのか?
メイン行は粉飾事実を知っていたのか?どうなのか?
私の興味はそこに行きました。
しばらくしたのち、
メイン行が直に当行との面談の機会を持っていただくこととなりました。
メイン行さんは、田舎の当行なんかと異なり、規模も違います。
その支店は、おそらくブロック統括店かなにかの店舗なのでしょう、
まるで半沢直樹の世界のような、支店長室に通されました。
当行は、営業店長、担当、そして私(当時は課長ではない)の3人に対し、
担当、役席、副支店長、本部担当、そして執行役員である支店長が登場しました。
この規模の支店となりますと、まさか役員級の支店長が登場することなど、普通ありえません。
そして、当方がK社の質問をすると、
なんと、その質問には、執行役員支店長がスラスラと答えるのです。
現場担当がズラッと並ぶ中で、流暢に話すのは支店長のみ。
聞けば、月2回程度、支店長がK社の社長を呼びつけ、経営改善のヒアリング、
いわゆるモニタリング会議を開催しているというのです。
この支店長室内で。
この支店長は、こういいました。
会社をつぶすという判断は簡単です。
しかし、そんなことをしても、だれも得をしない。
可能性のある限り応援する。
それが地方銀行としての仕事ではないですか。
私は支店長の言葉に感銘を受けました。
本気で企業を救おうとしている支店長がいるんだ。
これがメイン行の支店長の覚悟というもの。
私は、当行の支店長たちに爪のアカを煎じてのませたい、
私も支店長になった暁には、こんな支店長になりたい。
K社その後
私の興奮は冷めやらず、翌日、このメイン行の支店長の発言を上層部に報告。
私はこの支店長がいる限り、K社の再建はあるかもしれない、
メイン行の支店長はかくあるべきだ、と語りました。
しかし、K社の計画に同意するには、あまりにも当行の合理性に欠けるため、
支援協にはこのように回答しました。
- 計画には同意することはできませんが、リスケには応じます。
- 定期預金については、当行とK社との取引上の約束事ですから、このまま継続してもらいます。
- 当行に不利益がない(追加のマイナス情報等)限り、相殺や回収に走ることはありません。
- 支援協スキームには入りませんが、他行との協調姿勢は保つことを誓います。
- 暫定期間の3年間で、K社が再生可能性と判断できた場合、当行は改めて計画に参画します。
という方針です。
支援協計画では、あくまで全行同意が基本ですが、
シェア低位行などが同意しない場合、全体のスキームに影響を与えない場合においては、
計画は成立するという規定にのっとった対応でした。
通常ならば、支援協に対し、異を唱えるのは「けしからん」ということになったのでしょうが、
この支援協の統括責任者も、私のいうことが筋が通っているので、これ以上、と判断したのでしょう。
当行は計画に不同意、だけど一応支援は継続する、ということで、K社の計画は成立しました。
現在においても、当行は定期預金の解約はなく(債務者が納得しているので)、今に至っています。
さて、その後ですが、コロナ蔓延でサービス業である当社の業況も厳しかったと思います。
この間、メイン行が追加の金融支援(コロナ資金対応)を行って、資金繰りを維持してきました。
さらに、計画期間中に、驚いたことがありました。
あのサラリーマン社長が、自ら自分が保証人となる、と言い出したそうです。
この社長どこまで、覚悟決めているのか。
K社はいまだに事業を継続できている、
それはK社社長の努力とそれを支える金融機関があったから、です。
私とすると、メイン行のあの支店長が、腹をくくった姿勢を見せてくれたからこそ、
ぶら下がりの金融機関である当行も、踏みとどまる方針をとることができたのです。
やはり、事業再生を成功させるには、メイン行の支店長の人間力、度量というものが、
必要であると痛感させられた事例でした。
定期預金拘束とは話がずれた感がありますが、次もこのテーマで記述します。
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