こんにちは、#ひろとし課長#です。
正式に担保としていない定期預金。
企業が業況が悪化している場合、この定期預金は保全の一部、
という主張が通るのか、どうかという議論。
前回は、相殺適状の状態にあった定期預金の解約を認めない、という事例でした。
「そんなの当たり前でしょ」という意見もあったかもしれません。
今回の事例は、それって相殺適状?というギリギリの交渉について、
語っていきたいと思います。
S社の事例
製造業であるS社の事例を紹介します。
S社も前回事例のK社同様、当行はメイン行ではありませんでした。
K社と同じように、新規開拓、推進先のような位置づけ。
それでも、新規取引をはじめてから、数年たっている先でした。
当然この先にも担保はありません。
そのかわり、新規開拓のオーソドックス(当行にとって?)な、
積立定期預金の掛けこみを行っている先でした。
S社は数年前から業況が低調で、新型コロナの影響により、一気に業況が落ち込みました。
しかし、実はS社にはメイン金融機関というものがなく、
残高トップがコロコロ変わる、いわゆるメイン行が不在だったのです。
S社は相談する金融機関も持っていなかったため、
当行営業店担当者が、
再生支援協議会(現:活性化協議会)に相談するがよい、というアドバイスを行ったそうです。
さっそく、某地域の再生支援協議会から、当行にも、「返済猶予のお願い」送達され、
これをもって、S社は、通常の融資先から、私の所属する事業再生セクションに、移管されてきました。
コロナ特例リスケの同意要請
S社の過去の分も含めた決算書をまじまじと見ますと、
業況はコロナ前から下降気味でした。
そして在庫水準が上昇していることが見て取れたのです。
私は、また粉飾かな?と疑い、営業店の担当者にヒアリングするように指示しました。
事業再生の取組みをしていると、在庫粉飾のケースに出くわすことが、とにかく多いです。
再生への取組みは、企業と金融機関、社長と行員が、
今よりも一層の信頼関係を構築していかないと、なりたちません。
ですから、過去の過ちは、過ちとして、ハッキリと認めてもらわないと、
先に進むことはできないのです。
営業店が社長にヒアリングをしたところ、
ズバリ行いました、という話はなかったそうです。
しかし、社長もわからない点があると、いささかグレーな回答でした。
その矢先に、再生支援協議会から「コロナ特例リスケ」の同意要請が送られてきました。
コロナ特定リスケ計画は、コロナ禍においては今後の状況や見通しも立てないことから、
とりあえず、金融機関元金返済を止めてください、というものです。
この要請自体には、当行としても何ら異論もないのですが、
金融支援の中に、
「定期預金を解約して資金繰り充当するよう」という要請が含まれていたのです。
改めて「見合い預金」というもの
S社の過去の稟議書を読み返しますと、
S社は当行メイン先でもないため、売上の入金口座等は他行でした。
にもかかわらず、当社に対して短コロ資金を無担保、低レートで対応していたのです。
その融資条件を審査部が「承認」としていた理由は、
S社には定期預金がそこそこ積みあがっていたからです。
当然、審査役の稟議コメントには、
「定期預金の管理をしっかり行うこと」。
要するに、営業店は見合い預金をしっかり睨みをきかせておきなさい、という指示です。
S社に対しては、この定期預金の取引があったからこそ、
このレートで、しかも固定化する資金対応ができていたわけなのですが、
この定期を解約するとなると、金利の引き上げと少なくとも、約定返済を行わせる、
ことでもしないと、当行としてもバランスが取れなくなる。
営業店からすると、S社は支援したい(だって、支援協に行けと教えたのは当行だし)、
しかし、当行の保全面の懸念もある、
#ひろとし課長#、どうしたらよいでしょうか?と営業店に泣きつかれました。
再生支援協議会とのやりとり
確かに、定期預金を安易に開放することに抵抗があった私は、
そもそも、S社に対する方針がなんなのか。
「支援方針」なのか、
それとも、よくありがちな火傷しない程度に様子を見るという「現状維持方針」なのか、
それとも、積極的に回収にいく「回収方針」なのか、
それによって対応が異なってきます。
当行はメイン行でないので、積極的な支援方針はこの段階で取れません。
ならば、回収方針かというと、そこまでではない、
ということで、煮え切らないけど、
現状維持で、様子見だよなぁ
そうなると、定期預金は安易に解約することは、難しい、となります。
かといって、なんの理由もなく、「解約はできません」では
道理が通りません。
そこで私は、もしS社に再生の可能性が認められるのであれば、
定期預金の中途解約に応じてもよい、と思ったのです。
「コロナ特例リスケ」ではなく、専門家のDDを実施してほしい。
資金繰り支援に急ぐのであれば、急ぎ再生可能性を判断したい。
特に在庫に不自然さがあるので、ここをよく確認してほしい。
このように営業店を通じて支援協に要望を出しました。
ところがです、
この支援協議会のサブマネージャーは、当行に「否」と言われたことが気にいらなかったのか、
営業店に対し、「ケンカ腰」で接してきたというのです。
コロナ禍において、なにを言ってるのですか。
そんなこと言ってるの御行だけですよ。
と、「けんもほろろ」にやられたというのです。
こういう態度に出られた以上、売られた喧嘩は買う主義である私は、
一歩も引くつもりもなく、
面白いじゃないですか
特例リスケに対する支援協議会への回答について、
元金返済を止めることは同意します。
ただし、
- 定期預金の中途解約については、在庫粉飾の疑いが解消されるまで留保したい
- 特例リスケではなく、従来スキーム(専門家導入による計画策定)で進めてほしい
支援協にはこのように、回答しました。
条件付き同意、というやつです。
再生支援協議会は、「条件付き同意」=不同意というように捉えるらしく
(それを承知でやったのですが)
S社の計画合意形成は、当行が不同意で成立しなかった、ということになりました。
当然、S社の資金繰りについては、私はよく確認していたので、
当面は大丈夫ということを確認したうえで、です。
定期預金の中途解約
正式に担保としていない定期預金の拘束が認めらえる場合について、
前回ブログで、「期限の利益の当然喪失事由が発生するなどしてすでに相殺適状が生じている」場合、
と紹介しました。
今回のケースはどうでしょうか?
粉飾の疑い、という理由だけで「相殺適状」にあるか否か、という点、
また、支援協議会にリスケ要請を行ったことが、
S社は「支払不能」もしくは「支払停止」にあたるか、という点です。
粉飾決算については、これも従前のブログで紹介しましたが、
銀行取引約定書上「期限の利益喪失事由」に該当しますが、
まだ、「粉飾の疑いがある」ということのみです。
これを理由に定期予期を拘束するのは、濫用となるでしょう。
また、「支払不能」「支払停止」についてはどうか、
支払不能とは 債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態 (破産法第2条11号)
支払停止とは,支払不能であることを外部に表示する債務者の行為です。支払停止自体は,破産手続開始原因ではありません。支払停止は,支払不能を推定させる事実です。また,偏頗行為否認の要件である支払不能を推定させる事実でもあります(破産法162条3項)。
近時、再建型私的整理から法的処理に移行した場合に、再建型私的整理時に債権者に送付した支払猶予の通知が「支払停止」に該当するかが問題となっています。東京地裁H23.12.24や、最判H24.10.19の須藤正彦裁判官の補足意見において、「支払停止」に該当しないとされています。
ネット引用
もし再生支援協議会の発する「返済猶予のお願い」が、支払停止の意思表示と解釈されると、
支援協スキームの計画は、すべて「期限の利益喪失事由」に該当してしまう。
これでは事業再生の調整機関の存在が、そもそも成り立ちません。
これもダメです。
では、私がどんなロジックで、定期預金の中途解約を拒んだと言いますと、
あくまでも中途解約なのですよ、中途。
つまり、定期預金の満期、は誰のためにあるのか、
そうなのです、銀行にも期限の利益があるのです。
定期預金の中途解約と金融機関の善管注意義務
定期預金については、通常、満期日前に解約できない旨が特約されており、法律的には、預金者から中途解約の申出があっても、金融機関は期限の利益を主張して、これを拒絶することができる。
満期日に払い戻す場合には、金融機関は支払い義務を負っているが、期日前に払い戻す場合には支払義務を負っているわけではなく、中途解約に応ずるか否かは金融機関の判断に委ねられている。
金融機関の法務対策6000講
銀行が定期預金の中途解約を拒絶することには、法的に何ら問題ない、
これは顧問弁護士にも見解を確認する中で、主張したことでした。
その後、支援協さんが当行と直接話をしたい、という連絡がありました。
長くなりましたので、続きにします。
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